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階段室に西日が射し込んでいる。壁には蔦が這い、床には草が茂っていた。まるで森の中だ。そこを、矢筒を背負った人物が登ってくる。毛皮の服をまとい、わらじのようなものを履いていた。
「父さん、おかえりなさい!」
お腹を空かせた少年が飛び出してくる。父が何も持っていないのに気付いて、息子はがっくりと肩を落した。父がぽんと頭を撫でてやる。
「イノシシを取り逃したんだ。今夜は山菜汁で我慢してくれ」
満月が崩れたビル群を照し出している。東京タワーの足元に森が広がっていた。
廃墟になった高層マンションの一室から、一筋の煙が立ち上っている。焚火の前で、少年は夕飯を飲み干した。だが、まだ物足らない様子で、母の飲みかけのお椀を狙っている。
「あの日も、こんな満月が出ていたっけ」
空を見上げ、父は険しい顔をした。
「俺が小学校に入学した年。夜空に、満月よりも明るいものが無数にやってきたんだ」
その光は、世界中の上空に突然現れたかと思うと、次々に人々を撃ち倒していった。地球人は反撃したが、敵う相手ではなかった。都会も田舎も見境なく焼き尽くされ、たった一年で、世界の人口は一万分の一にまで減ってしまった。
「宇宙人は俺たちを殺すだけ殺して、さっさとどこかへ帰っていった。地球に住み着くわけでも、俺たちを喰うわけでもなかった。何が目的だったのか、ちっとも分らないよ」
父は不思議そうに言った。
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