1人が本棚に入れています
本棚に追加
月が空のてっぺんに昇った頃。少年は一人で外をうろついていた。寝床をこっそりと抜け出して、どこかにヘビイチゴでも生えていないか、探しに来たのだ。
異星人の襲来から三十年経って、街はすっかり変ってしまった。手入れする人がいなければ、道も建物も雨風にさらされて、だんだんと砕けてゆく。今では緑に覆われ、鳥や獣も住み着いた。あと百年もすれば、人間の栄えていた証なんて、跡形もなく消えてしまうだろう。
満月のおかげで、灯りがなくても草むらの形は見える。四つん這いになって、手探りしていた時だった。
少年は、どこからかいい匂いが漂ってくるのに気付いた。
辿ってゆくと、森のなかにぽつんと、机のようなものが置いてあった。月明かりに照されて、てらてらと光っている。その上に、白い器のようなものがのっていた。
おそるおそる触れてみると、温かかった。紙の蓋がついていて、何か文字が書いてある。
少年は知る由もなかったが、それは、カップラーメンという食べ物だった。
人間がほとんど消えてしまった街に、熱々のカップ麺が置いてあるだなんて、どう考えてもおかしい。だが、お腹がぺこぺこの少年に、思いを巡らしている余裕はなかった。
蓋を開けると、食欲をそそる匂いとともに、白い湯気が立ち上った。肉や野菜も入っていて、見た目もすごく美味しそうだ。
指先で摘んで、ちゅるちゅると啜ってみる。人生初の文明の味に、少年は頬を緩ませた。
「お、おいしい……!」
無我夢中でむさぼり、最後の一滴まで飲み干した。
夜中に食べるカップ麺ほど、美味しい物はない。お腹を満たして、さあ帰ろうと歩き出すと、金属製の檻が落ちてきて、あっけなく捕まってしまった。自分が罠にかかったことに、少年はやっと気づいた。
最初のコメントを投稿しよう!