05.頭に浮かぶことさえも

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05.頭に浮かぶことさえも

 晴人が白いビニール紐を手にした中学生くらいの男の子と遭遇してから半月ほどが過ぎた。晴人はあのあとからアルバイト帰りには公園にあの少年がいないか探した。  大学の講義が終わってアルバイトに行く途中でも、買い物に出かけるときでも、あの公園を通りかかるときでも。  けれど、晴人はあの少年の姿を見つけることはできなかった。公園にあの少年の姿がないだけで晴人の心はざわつき、そしていやな想像が頭の中に浮かんだ。それは頭に浮かぶことさえも厭わしい想像だった。  あの少年があの公園にいないことで、かえっていやな想像が頭の中に広がった。同時に、白いビニール紐を手にするところまで追い込まれた少年に、自分には何もできないのだという無力感が募った。世界に黒く濃い影が落ち込んでいた。
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