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06.いい感じの名前を
「ねえ、ちょっとこのクッキーの味見をしてみてよ」
カフェ・レインキャッチャーの閉店後、晴人はマスターにクッキーを差し出された。
「クッキーですか?」
「うん。サイドメニューに新しく出そうかと思って」
マスターが差し出した紙皿の上には二種類の丸いクッキー。ひとつはきつね色に焼き上がったもので、もうひとつはココア色のもの。
「マスターが焼いたんですか?」
「ううん、おばあちゃんだよ」
そういえばこの店が今の店になる前は、マスターの祖父母がこの店を経営してたって言ってたし、おばあちゃんの方はまだ元気だって言ってたな。晴人はそんなことを思い出しながらクッキーに手を伸ばす。まずはきつね色の方、そしてココア色の方。
「サクサクでほんのり甘くて美味しいですよ。これならいくつでも食べられます。コーヒーと一緒に食べるにはいいと思いますけど」
「売り物になりそう?」
マスターの質問に晴人は大きくうなずいた。
「自信を持っていいと思います」
カフェ・レインキャッチャーを出ると、夜空には金色の丸い月が浮かんでいた。
晴人はクッキーの入った包みを手に帰り道を進む。よかったらクッキー持って帰ってよ。おばあちゃんがたくさん焼いたから。そう言ってマスターから手渡されたクッキー。
「売り出すなら名前を考えないとね」
晴人にクッキーを渡したあとにマスターが言った。
「名前ですか?」
「うん、ただのクッキーじゃ味気ないからさ」
このあいだ売り出しはじめた特別なコーヒーには『レインキャッチャー』という名前が付けられた。ならクッキーにも、ということなのだろう。晴人は手にした丸いクッキーを見つめる。
「君もなにかいい感じの名前を考えてみてよ」
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