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07.金色の丸い月が漆黒の夜空に
マスターにそう言われた晴人は、あれこれ考えながら夜道を自分の部屋に向かって進む。けれど、簡単には思い浮かばない。まして売り物となるとなおさらだ。金色の月が漆黒の夜空に浮かび、クッキーの名前を考える晴人を見下ろしていた。
金色の月が浮かぶ夜空、すでに寝静まったみたいに静かな住宅街。
クッキーの名前を考えながら夜道を進む晴人は、あの公園にさしかかる。いつものようにベンチの方に視線を向けると、あの少年がいた。しかも、やっぱり白いビニール紐を手にしている。感情も思考も冷たく凍りつかせてしまう氷のように白いビニール紐を。
晴人は慌てて自転車を漕ぐのをやめ、ベンチの少年に近づく。
「ねえ、君。大丈夫?」
晴人の声に少年はびくっと体を震わせた。近づいてくる晴人に気づかないくらい、絶望に追い詰められていたみたいに。
少年は手にしている白いビニール紐を隠そうとする。ひどく間違っているものを手にしていることは認識しているのだろう。それから少年はベンチから立ち上がり、晴人に告げる。
「これ以上、僕にかまわないでください」
「そうはいかない。うーん、なんというか、君は良くないことを考えてたんだろう? だからこのまま君をどこかに行かせるわけにはいかない」
それから晴人は少年にクッキーを差し出した。
「ぼくのアルバイト先でもらったクッキーがある。お腹空いてるだろう? 手作りの美味しいクッキーくらい食べなよ」
少年は丸いクッキーを見つめ、そして手を伸ばした。
「ぼくの話をしてもいいかい?」
晴人は夜空を見上げながら言った。夜空には相変わらず、金色の丸い月が漆黒の夜空に浮かんでいた。
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