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01.言われてみれば不思議な名前
「ねえ里穂、『レインキャッチャー』って名前、考えてみれば不思議な名前だよね。レインをキャッチする、つまり雨をつかまえるってことでしょ? あまりカフェの名前っぽくなさそうだけど」
カウンター席に座る彩夏が、隣の席に座る里穂にたずねた。二人でよくこの店にやってくる常連客だ。
里穂はカウンターに置かれたメニュー表を手に取る、コーヒーやサイドメニューの名前とともに『レインキャッチャー』なる店の名前が控えめに書いてある。雨雲から伸びる雨脚のイラストとともに。
「彩夏に言われるまで、この店の名前なんて考えてこともなかったな。言われてみれば不思議な名前ね。レインキャッチャーって」
それから二人はそれぞれの想像をそれぞれの頭の中でめぐらせているみたいに、コーヒーの入ったカップを無言で手に取る。
「ねえあなた。この店の名前の由来って知らない?」
彩夏がカウンターの内側にいる晴人にたずねた。
「この店の由来ですか……。うーん、そういえば僕も聞いたことないんですよね、働き始めてまだ三ヶ月ほどなんで。。すみません」
申し訳なさそうな顔の晴人。そのとき、通りに面したテイクアウト用の窓口にお客さんがやってきて、晴人はその対応に向かう。
「うーん、気になるけどね」
彩夏の言葉に里穂も大きくうなずく。
「マスターも忙しそうだし」
里穂がマスターの動きを目で追う。さっきは別のお客さんと会話しながらコーヒーを淹れていたけれど、今はテーブル席を片付け中。
「また今度、聞くことにしようか」
彩夏の言葉に里穂も同意し、空になったカップをソーサーの上にそっと戻す。
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