うそぶく唇

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「やっと来てくれたんですね」 そう言うと綱吉はやんわりと微笑んで手元のワイングラスに視線を落とした。 蜂蜜色の瞳に赤いワインが映るのが見て取れる。 「会いたかった」 いつにもなく、甘く寂しい響きを宿して届いた言葉にくらりと眩暈がする。彼は…沢田綱吉という人間は、一瞬で、自分という生き物を使い物にならなくさせる事が出来た。 彼以外の誰に、そのような事が出来よう。この、ボンゴレ二大剣豪のうちのひとり、S・スクアーロに。 「……どうしたぁ」 ぶっきらぼうに返すと、くすくすと笑いが返ってくる。 「どうもしません。ああでも、ちょっと熱があるのかも」 「熱だぁ?」 言われてみれば少し、見上げてくる視線が熱っぽい。 けれどそれは、…久々に会う恋人に対しての気持ちの表れであるとばかり思っていた。 ボンゴレ十代目は、真っ赤なワインをグラスのなかでゆっくりと円を描くようにゆらし、じっとそれを見つめた後、一口、口に含んだ。 「ワインなんて飲んでいいのか」 「だっておいしいんだもん。…あー頭ががんがんしてきた、はは」 まだ一口分グラスにのこした状態で、腰下ろした豪奢なソファにのけぞるようにもたれかかって危なげに肩を揺らしている。 その様子を目前にして、スクアーロの頬がひくひくと引きつる。 (こいつ本当に大丈夫かァ…?) 「ふふふふ。  スクアーロさんも一緒に飲みましょうよォ」 「はぁぁ!?」 大きく身体を揺らしながらいやらしくすがりついてくる自分のボスにとことん呆れつつ、頭の片隅でそういえばもう随分とご無沙汰であると思った。 以前二人が熱を交し合ったのは、スクアーロが長い任務に就き、綱吉が日本の知人に会いに行くのよりも前だったはずだ。 「……はかりやがったな」 気持ちよく酔ってしまった様子の青年が甘えた声で抱きついてくるのを、ありがたく享受するに至ったのである。 End.
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