09 チョウツガイ (side SHINOBU)

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 結局、朝方まで騒いで、それから寝た。  家族が増えて賑やかだ。  きっとこれからはこれが日常になる。  そんな気がした。 ◆ 「お世話になりました」  午前十一時。  玄関で彩と二人、蒼さんに頭を下げる。 「世話になったのは私の方だよ。いろいろと酷いことをしてしまったのに許してくれて。ありがとう」 「私は酷いこととは思ってません。紫信さんも。ね?」 「あぁ。七瀬さんを救えたんだ。恨んでませんよ」  蒼さんが微笑んで頭を下げた。  何をしても絵になる人だ。  俺も頑張ろう。  帰り道は俺が運転した。  真城は後部座席で騒いでいたが、そのうち静かになる。  バックミラーで見たら爆睡していた。 「真城さん、寝不足みたいで。迷惑かけちゃって申し訳ないです」 「そうだな」 「後で何かお詫びしないと。紅林さんにも」 「そのつもりだ」  助手席の彩は黙り込む。  会話が続かない。  元々、家の中でもそれほど会話は無かったが。  何と言うか、気まずい。  親子ではなく恋人になったからだろうな。  いい歳して情けないが、彼女になった彩にどう接していいか分からなかった。 「……紫信さん」 「何だ」 「私たちの子供のことなんですけど」  段階を飛ばし過ぎだろ。  俺は内心、激しく動揺していた。 「……子供がどうした」 「作らない方がいいと思うんです」 「……嫌なのか?俺とするのが」 「違います。そうじゃなくて……可哀想な気がして」 「可哀想?」  彩は少し考えてから、再び口を開く。 「その子もきっと想墨師の力を受け継ぎますよね」 「だろうな」 「私はその子の番を見つけないといけません」 「そうなるだろうな」 「その子も番の人も過酷な人生になります」  なるほど。だから子供を作らない。  彩らしい考えだ。 「俺は番としての人生を辛いと思ったことは無い」 「……そうなんですか?」 「彩は辛いのか?」 「……わからなくて。紫信さんと出会えたこと、一緒に居られることは凄く幸せなんですけど」 「俺たちが幸せだからと言って、子供も幸せになれるかは分からないな。確かに」 「……はい」  俺は蒼さんから聞いた話を思い出す。 「想墨師は元来、人々を苦しみ悲しみから救う為に存在していた。世の秩序を守る為に。でも現代は複雑になり過ぎている。数人を救ったところで何も変わらない」 「……そうですね」 「だから次の代を産み育てる必要も無いのかもしれないな」 「……いいんですか?紫信さんは、それで」  問われた意味が分からず黙っていると、彩は小さな声で言う。 「子供……欲しくないですか?」 「まぁ……欲しくないと言えば嘘になる。彩の娘だ。きっと可愛いだろう」 「じゃあ、産んだ方がいいですか?」 「すぐに結論を出さなくてもいいだろ。お前はまだ若い。俺だってあと十年、いやもっと先まで頑張る」 「……ありがとうございます」  彩は繊細な性格だ。大切にしなくては。 「子供が出来なければ、してもいいんだよな」 「……え?」 「きちんと避妊する」  彩は黙り込んだ。  また怒らせたか。 「……それなら……いいです」 「ん?」 「優しくしてくれるなら、してもいいです」  ……マジか。  また怒られて殴られると思ったんだが。 「って、紫信さん治ってるんですか?」 「あぁ」 「いつから?」 「最近」 「……そうだったんですか」 「お前が大人になったかららしい。蒼さんが言っていた」 「本当に……そうなんですね。番って」 「治っても彩以外の人間とは交われない」 「そうなんですか?」 「試したことが無いから何とも言えないが」 「浮気できませんね」 「そういうことだな」  彩は嬉しそうだった。  俺が浮気するとでも思っていたのか? 「俺は彩しか見ていない」 「わかってます」 「生涯、彩を愛する」 「結婚式みたいですね」 「そうだな」 「私も」 「ん?」 「私も生涯、紫信さんだけを愛します」  運転中だから仕方ない。  誓いのキスは家に帰ってからしよう。  焦ることは無い。  これからもずっと一緒だ。 【 完 】
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