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前世なんてものがあるとしたら、多分いつか見た夢がそうなんだと思う。
自分は黒い子犬だった。
ビロードのようにツヤツヤした、まだ目も開いてない真っ黒な子犬。双子の兄貴と一緒に、水溜まりの端っこに落ちてた。
前世からの捨て犬だったなんてね。
優しい目をしたゴールデンリトリバーのばあちゃんが気づいたから、俺たちは死なずにすんだ。
ばあちゃんのリードを引いていた若い女は少し躊躇して、というか、小さすぎる命にびびって、俺たちを拾い上げずに立ち去った。
見つけられたのに見捨てられる。今だってそんなもんだ。大して腹も立たない。
でもしばらくして、女は一人で戻ってきた。手にタオルを仕込んだ箱を持っている。
そして俺たちは拾われた。
拾われた先は普通の民家とは違っていて、何かの倉庫の様だった。昼夜を問わず人が何人か頻繁に出入りしていて、俺たちの世話をするのも色々だった。
ある時から、俺たちを拾ってきた女が俺の担当になったようだった。兄貴は別の女性が面倒を見るようになった。
ばあちゃんと俺が彼女に、兄貴がその女性に連れられて散歩に出るようになって、道すがらばあちゃんから、色々訳のわからないことを言われた。
選ばれた、とか神の遣いとか。
世話係の彼女たちは巫女のようなものであるらしい。
ばあちゃんが神のようなもので、その神様が見つけた出処不明の俺たちは、天が神の元に遣わせた使者なんだと。
まあ、夢だから。
しかし、天だの神だのと崇められたい、なんて願望が夢に現れたとして、犬とはね?
犬っていったら、権力に屈した象徴みたいなもんじゃね?
俺はそんなもので在りたかったのか?
いや、前世がそんなんだから、今、こうなってるのか?
天からの使者だから当然待遇は良かったけど、住んでる建物が倉庫だから規模はしょぼかった。もっとギラギラの城とか、高そうな家具とかに囲まれてても良かったと思うけど、俺がその夢を見た時点ではそういう豪奢な物を見た事がなかったから、イメージがわかなかったんだろう。
彼女と俺と、兄貴と兄貴担当と老犬。
毎日毎日散歩に出る。
彼女が俺たちを拾った時に一度立ち去った訳は、箱を持ってくる為じゃなく、拾っていいか神にお伺いを立てにいったのだ、と、ばあちゃんが辻褄の合わない事を言い出す。
お前が神じゃなかったのかよ、と思いながら、ああ、俺たちを拾ったのは彼女の意思じゃなかったのか、とちょっとガッカリする。
でも、すぐに思い直した。
あの時、瀕死の俺たちを見て、確かに彼女は迷っていた。どうしよう、コレ、と。
小さな命をなんの躊躇いもなく救えるような、カッコイイ人間ではなかったけど。
彼女は、箱を持って戻ってきた。
俺は神でも神の遣いでもないし、どうしようもないやつだから、それだけで良いじゃん、と思う。
兄貴にこの話をしたら、「前世も捨て犬かよ」と笑っていた。
ちなみに、夢だから結末はない。
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