ポルターガイスト

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 信一(しんいち)は怒っていた。あんなに貴子(たかこ)が好きだったのに、貴子は一方的に別れようと言ってきた。もっと幸せになりたかったのに。どうして別れようと思ったんだろう。何が何でもつけねらって、説得しよう。全く聞かなければ、一方的に追い詰めてやる! 覚えてろ!  信一は帰りの地下鉄に乗っていた。貴子と一緒にこの地下鉄に乗ったのに、今はもう1人だ。寂しいな。一緒にいれば、とても楽しいのに。1人でいると、こんなに寂しいとは。1人でいる時間を過ごすと、貴子がいない寂しさをひしひしと感じる。  信一は辺りを見渡した。すると、貴子がいる。そして、新しい彼氏と思われる男と話をしている。まさか、貴子は新しい人と交際を始めたというのだろうか? 絶対に許せない。何としても奪い返してやる! 待ってろ! 「あっ、あいつ!」  貴子は最寄りの駅で降りた。それを見て、信一も降りた。俺の貴子を取り返してやる! 「つけまわしてやる!」  貴子は階段を上がって、改札を出た。それに続いて、信一も改札を出た。家までつきまとおうとしているようだ。だが、貴子はその事を全く知らない。  貴子は再び階段を上がって、地上に出た。いつもの風景だ。何度この光景を見たんだろう。信一と一緒に歩いた。だけど、信一は理想の相手じゃなかった。もう付き合いたくない。新しい人と付き合うのがいい。もう信一の事は忘れよう。 「あれ?」  ふと、貴子は何かに気づき、後ろを振り向いた。だが、そこには誰もいない。貴子は首をかしげた。 「誰もいないな・・・」  貴子は自宅に向かって歩き出した。自宅までは歩いて約5分だ。そんなに遠くない。 「はぁ・・・」  貴子はため息をついた。ここ最近、誰かに付きまとわれるのが多くなった。だが、誰につきまとわれているのかは全くわからない。同僚に相談したが、全くわからない。どうしたらいいんだろう。 「早く新しい恋人と結婚しないと・・・」  貴子は考えていた。新しい恋人、五郎(ごろう)と早く結婚しなければ。そのための資金を集めなければ。五郎になるべく負担をかけたくない。  貴子はマンションに入った。ここで暮らし始めて、もう10年だ。すっかりここでの生活に慣れてきて、住民とも仲良くなれた。だが、結婚したら、ここを出て行かなければならない。それはいつになるんだろう。  貴子は振り向いた。その時、ある男が目に入った。信一だ。まさか、ここまで付きまとっていたのは、信一だったとは。もう別れたのに。諦めてないんだろうか? 「えっ!? 信一!」  貴子は部屋に戻ってきた。信一と付き合っていた頃は、2人で一緒にいた。だが今では、五郎といる事が多い。そっちの方が嬉しい。 「あいつがつけまわしてたのか」  貴子は悩んでいた。信一を何とかできないだろうか? このままでは、2人の恋愛に支障が出てしまう。 「どうしようかな・・・、そうだ!」  と、貴子はある事を考えた。それは、信一をある事で驚かして、降参させる事だ。  貴子は引き出しからある物を出した。それは、葉っぱだ。実は貴子は、化けタヌキの血を引いていて、様々な物に化ける事ができる。それを生かして、信一を驚かせようというのだ。貴子は少し笑みを浮かべた。  その頃、何も知らない信一は貴子のマンションを見ていた。ここで愛を語り合ったのに。もう恋は終わってしまった。順調にいくと思っていたのに。結婚できると思っていたのに。 「くそっ、またつけまわしてやる!」  もう帰らなければ。明日も仕事がある。明日に備えて、帰って眠らないと。 「今日はもう疲れたな、帰ろう」  信一は帰り道を歩いていた。1人で歩いていると、寂しさを感じる。横にいた貴子がいない。それを考えるたびに、貴子と過ごした日々が走馬灯のようによみがえる。 「貴子・・・。好きなのに・・・」  信一は地下鉄の構内に入った。構内には、何人かの人がいる。彼らの多くは、仕事帰りの人だ。疲れている人もいれば、そうじゃない人もいる。 「明日もつけまわしてやる!」  信一は地下鉄の改札内に入り、ホームで電車を待っていた。ふと、信一はポケットから写真を取り出した。それは、貴子と一緒にいる写真だ。あの頃は幸せだったな。 「一緒にいた頃が懐かしいよ・・・。だけどもう帰ってこない」  信一は電車に乗って自宅の最寄りの駅を目指した。ここから10分ぐらいだ。そんなに遠くない。電車の中には、仕事帰りの人の他に、学生の姿もいる。彼らは部活帰りだろうか?  信一は最寄りの駅で降りた。駅では多くの人が下りた。ここはバスターミナルがあり、乗り降りが多い。だが、信一の家はすぐ近くだ。バスに乗る必要はない。  信一は住んでいるアパートにやって来た。もうここに住んで15年ぐらいだ。すっかりここの生活に慣れてきた。なかなか恋人に恵まれなかったが、ようやく貴子という恋人に恵まれた。なのに、別れてしまった。  信一は部屋に戻ってきた。もう今日は疲れた。仕事以上に、貴子を追いかけまわしていたからだ。だが、再び円を取り戻すためなら、しなければならない。 「もう寝よう・・・」  とても疲れた。そのまま寝よう。信一は部屋の電気を消して、そのまま寝入ってしまった。  深夜、信一は何かに気づいて、目を覚ました。深夜なのに、何かに気づいたのだ。何だろう。 「ん?」  信一は辺りを見渡した。だが、何もない。だが、不吉な予感がする。恐ろしい事が起こりそうだ。 「な、何だ?」  と、目の前から包丁が襲い掛かってくる。その包丁は、部屋のものじゃない。それに、自分に襲い掛かってくるようだ。 「包丁! どうして包丁が襲ってくるんだ?」  だが、包丁は突然、姿を消した。信一はほっとした。 「はぁ・・・。ゆ、夢だよな・・・。寝よう・・・」  信一は再び寝ようとした。だが、また何かを感じる。今度は何が襲い掛かってくるんだろう。 「えっ、今度は何?」  その時、目の前に大きな石が現れた。今度も襲い掛かるんだろうか? 「い、石?」  信一は驚いている。これは、夢だろうか? 超常現象だろうか? 「うわっ!」  突然、大きな石は信一にのしかかった。信一は全く動けない。どうしよう。 「どうして襲い掛かってくるの? 重い! 苦しい!」  と、信一は目が覚めた。あっという間に朝だ。やはりあれは夢だったようだ。 「あれ? 夢か・・・」  信一はほっとした。やっぱり夢だったようだ。夢でよかった。 「昨日の事、大丈夫だったよな・・・」  だが、心の中では本当に起こったんじゃないかと思っていた。 「だ、大丈夫だよな・・・」  そのマンションの外では、貴子が物陰にひそめていた。包丁も、大きな石も、貴子が仕掛けたいたずらのようだ。 「フフフ・・・」  貴子は笑みを浮かべた。だが、誰も貴子が仕掛けたものだとは知らない。
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