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二郎が長野にやってきて1か月ぐらいが過ぎた。二郎は徐々に長野での生活になれ、転校した小学校でも友達に恵まれた。二郎はここで住むのも悪くはないと思い始め、ここも好きになってきた。でも、心の中では思っていた。いつか、東京に戻ろう。そして、長野での出来事を話したいな。
二郎は友達と帰り道を歩いていた。今日はやらなければいけない宿題がたくさんある。頑張らないと。
「じゃあねー、バイバーイ」
「バイバーイ」
二郎は家の近くの交差点で別れた。いつもと変わらない、いつもの日々だ。友達は歩いて数分にある自分の家に向かっていった。2人の住む家は、新興住宅地にある。雪がよく降る場所のためか、寒さ対策はしっかりしている。
「はぁ・・・。今日も疲れたな」
二郎は疲れていた。東京での日々も疲れるが、ここでも疲れる。だけど、明日頑張れば休みだ。あと少し、頑張らなければ。そして、大好きなテレビゲームをやるんだ。
その時、隣で変な音が聞こえる。ここはもう、20年ぐらい空き家が続いているそうだ。何度も撤去しようと思っているが、この家には幽霊が出ると噂があって以降、解体がなかなか進まないそうだ。
「ん? 何だろう、この音は」
この中で音がする。まさか、ここに住む幽霊だろうか?それとも。とりあえず、行ってみよう。行っても死ぬ事はないだろうから。
「今は誰も住んでないはずなのに」
二郎は中に入った。中は埃だらけで、ボロボロだ。もう何年もここに入ってないんだろう。当時のままで残されているってのには驚きだ。この家にはどんな人が住んでいたんだろう。そして、どんな生活を送ったんだろう。全く想像できない。
二郎がダイニングの跡と思われるところにやってくると、そこには1人の老婆がいる。老婆はそばを作っている。まさか、ここに住んでいた人だろうか? ここに出る幽霊って、まさか、この人? 優しそうな雰囲気だ。全く怖くない。
「そばを作ってる?」
と、老婆は振り向いた。二郎に気づいたようだ。老婆は優しそうな目をしている。初めて会うのに、なぜか親近感がわく。どうしてだろう。
「誰だい?」
「さ、最近ここに引っ越してきました、谷村二郎です」
二郎は少し緊張している。目の前にいるのは、ここにいる幽霊かもしれない。もし呪われたら、どうしよう。
「そうかい。そばを作るの、見に来たのかね」
この老婆は、見るからにそば職人のようだ。この人の家族はどこにいるんだろう。彼らはそば職人になったんだろうか?
「い、いや。音に誘われまして」
「そっか。もうすぐできるから、ちょっと試しに食べてみるかい?」
まさか、そばを勧められるとは。せっかくだから、食べて行こう。いい人っぽいから。
「は、はい・・・」
すると、老婆はゆで上がったそばを少し味見させてくれた。善光寺に行った時に食べたのと比べて、香りがいい。いかにもおいしそうだ。
「どうぞ」
「いただきます」
二郎は食べた。あまりにもおいしい。こんなにおいしいそばがあるとは。こんなにおいしいの、誰も食べてくれないなんて、残念だ。
「お、おいしい! 先日、善光寺の近くで食べたそばよりずっとおいしい」
「ありがとう」
老婆は笑みを浮かべた。二郎はスマホを見た。そろそろ帰らなければいけない時間だ。二郎はすぐに家を出て、自宅に向かった。その様子を、老婆はじっと見ている。
二郎はいつものように家に帰ってきた。家では澄子がハンバーグを作っている。今夜はハンバーグだと聞いた。二郎は楽しみにしていた。
「ただいまー」
「おかえりー」
と、澄子は二郎の様子がおかしい事に気が付いた。何か、嬉しい事があったんだろうか?
「どうしたの?」
「あの家、誰が住んでたのかなって思って」
それを聞いて、澄子は反応した。この家の事を、知っているようだ。
「ああ、あそこね。上諏訪八重(かみすわやえ)っていう人が住んでたって聞いた」
「そうなんだ」
1週間ぐらい前、澄子は知った。隣の家には上諏訪八重という老婆が1人で住んでいて、20年ぐらい前に死んだと。二郎はその事を全く知らなかった。それを聞いて、二郎は思った。ひょっとして、あの老婆は八重だろうか?
「どうしたの?」
「いやいや、何でもないよ」
二郎は何事もなかったかのように笑い飛ばした。今さっき会ったのに。会った事を話したら、何をされるかわからない。2人だけの秘密にしておこう。
その次の日、この日も二郎はあの家にやって来た。それ以来、八重のそばを作る姿のとりこになった。どうして好きになったんだろう。全くわからない。八重は不思議に思っていた。どうして二郎はこの家に来るんだろう。親戚じゃないけど、まるで孫のように見えて、かわいい。どうしてそう感じてしまうんだろう。
「どうしたの?」
「面白そうだから見に来た」
二郎は笑みを浮かべた。学校の帰りにここに来るのが楽しいようだ。どうしてなのかわからない。ひょっとして、八重の事が好きなんだろうか?
「ふーん」
「あれだけそばを食べてるのに、そばを作ってる所、見た事がない」
二郎は東京にいた頃から、何回かそばを食べた事はあるが、作っている姿を見た事がない。こういう風にしてくるのか。ただ興味本位で見ていた。
「そうかい・・・」
それを聞いて、八重は寂しそうな表情をしていた。何か悩んでいる事があるようだ。二郎には全くわからない。
「どうしたの?」
「いやいや、何でもないよ」
八重は笑ってごまかした。と、八重はある物を出した。そばの生地だ。二郎には何なのか、わからない。
「やってみるかい?」
「い、いいけど」
まさか、作れと言われるとは。そば打ち体験があるそうだが、二郎は全くしたことがなかった。二郎は少し戸惑っている。
「これを伸ばしてみて?」
「は、はい・・・」
二郎は麺棒で伸ばし始めた。これを伸ばして、細く切ればそばになるんだ。だんだんイメージがわいてきた。初めてやるのに、どうしてこんなに楽しいんだろう。八重はその様子を厳しそうな目で見ている。まるで先生のようだ。
「均一に力を入れないときれいに伸びないよ」
「は、はい・・・」
二郎は驚いた。この人、何者だろう。まさか、凄腕のそば職人だろうか? とんでもない人に会ってしまった気がする。
「まだまだ!」
八重の口調は力強い。今さっきの優しい表情とはまるっきり違っている。二郎は少し焦っている。
「難しい・・・」
「これからよ、これから。最初からうまくいったらおかしいから。努力すれば何とかなるよ」
八重は温かい目で見ている。そうじゃないのに、まるで本当の祖母のようだ。できるようになれば、きっと喜んでくれるはずだ。だから、もっと頑張ってみようかな?
「わかった。頑張るよ」
「そう。期待してるよ」
「ありがとう」
そして、二郎は自宅に帰っていった。八重は興味笑みを浮かべて見送っている。そして八重は、ポケットからある写真を出す。その白黒の写真には、4人の若者が写っている。それを見て、八重は泣きそうになった。
二郎は家に帰ってきた。最近、帰るのが遅い。澄子は心配していないだろうか?
「ただいまー」
「あら、何してたの?」
エプロン姿の澄子は心配そうな表情だ。帰り道で何をしているんだろう。
「何でもないよ」
「ふーん」
二郎は2階へ向かった。澄子はその様子を不安そうに見ている。ひょっとして、何かを隠しているのでは?
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