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その僕の発した言葉に合わせるかのように、窓から見えていた丸い月の表面には一線の薄い筋がぴしりと入った。
そして、その線はヒビのように月の表面を走っていき、僕の目に映っていたあのまあるい飴玉のような月は、まるで本当に飴細工だったかのように粉々に割れると、そのまま僕の視界の隅に崩れ落ちていった。
唸り声のような低い轟音が、思わず窓辺に駆け寄った僕の耳に届いた時、僕はそれを目撃した。
空に広がる真っ黒な夜の帳が、油絵の絵の具を削ぐかのようにぼろぼろと剥がれていく。
そして、その隙間からは、今まで目にしたことも無いほどの眩い光の束が差し込み、僕は、そのあまりの美しさに息を飲んだ。
あの見たことも無い美しい光には、どんな賞賛を送ればいいのだろう。僕は、それを学校で習ってはいない。
ただ、僕がこの世界で感じていたその全ての感覚は、単なる僕の感想ではなかった。
造り物はあの月だけじゃない、嘘っぱちの造り物は、僕が見ていたこの世界そのものだったんだ!
目の前に広がっていく光景が、僕にそう確信させる。
僕のいつかは、そうしてすぐに訪れたのだった。
僕が辿り着いたその答えは、あの夜に出会った見知らぬ男の人がくれたものだったのだろうか。
それは、今になってもわからない。
ただ、今こうして見上げている夜空は、宇宙という無限に広がった空間らしく、そこに輝いている小さな粒は星と言い、その中でもひと際煌々と輝き、優しく柔らかな光を帯びるあの大きくて丸い形をした物体を、こちらの世界の人達は、月と、そう呼んでいる。
僕がこの世界についてわかることと言えば、今はそれぐらいしかない。僕の中の疑問の数は、前にもまして増えるばかりだ。それこそ宇宙のように無限に湧いてきて、僕は少々戸惑っている。
そういえば、僕が感じていたあの窮屈さも、いつの間にか消えてまるで感じなくなった。
それは、この世界は驚くほどに壮大で、劇的で、とても美しいと、僕の体もそれを理解したからかもしれない。
きっとこの世界は、僕の居たあの場所とは違う世界だ。決して嘘っぱちでも、造り物でもない、ここが本当の僕の世界。
それは、誰が証明するわけでもなく、そんな風に真っ直ぐに思えるこの気持ちこそが、その確たる証拠だと、僕はそう信じている。
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