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まだ夜も更け切ってはいない。その内に、僕は少し外に出てみたくなった。
なぜか家にいると窮屈に思う。僕はこうして家にいる時や、建物の中にいる時に妙な息苦しさを覚えることがあった。
それは、この世界が狭いと感じたその時からだ。
僕はお父さんとお母さんを起こしてしまわないように、こっそりと家を抜け出した。
夜の外出はお母さんから止められてはいたけれど、その日はどうしてもその窮屈さに耐えることができなかった僕は、家の前の通りへと出て辺りを散策することにした。
真っ黒な空にぽつんと浮かぶ丸い月は、まるで縫い付けたように同じ場所にある。そこから降る淡い光が暗い通りをぼんやりと照らしいた。
その往来には僕以外に誰もおらず、街はしんと静まりかえっている。
僕は頭上に浮かぶ丸い月を見上げながら、一人夜道を歩いた。そうしてしばらく歩いていると、突然こう声を掛けられた。
「おいそこの少年、どうしたんだい?夜に一人で出歩くなんて危ないじゃないか」
一瞬、僕の心臓は止まりそうになった。咄嗟に声がした方へと僕は視線を向ける。
すると、そこには黒いハットを深く被った見知らぬ男の人が僕の目の前に立っていた。その男の人の顔は、深く被ったハットのせいで良く見えない。
僕はその男の人を見てすぐにこう思った。
この街の人とは随分と雰囲気が違う。着ている服も、歩き方も、話し方も、どこか違和感がある気がする。
だけど、それも勝手な僕の感想だ。ただ僕がそう思った、そう感じた、それだけに過ぎない。
ここは大きな街なのだから、こういう風変わりの人がこの街にいても別に不思議な事ではないし、違和感を感じたのは、単に僕がこの街でこの男の人をまだ一度も見たことが無かったから、そんな些細なこと、だと思う。
特に僕が疑問に思う事でもないはずだ。
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