僕のスモールワールド

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 それにしても、そんなに心配そうにどうしたんだいと聞かれても、僕がこうしている理由を説明したところで、きっとこの男の人がそれをわかってくれるとは到底思えない。  だから僕はその男の人に、月を見たくなったんですと適当に答えた。  「そうか、少年は月が好きなのかい?」  今度はそれにどう答えたらいいのかと迷った僕は、少し考えて嫌いですと答えた。  それは、僕の正直な気持ちだ。でも、あの月を嫌いだと言う人を僕はこの街で聞いたことがない。  もし、月は嫌いかと始めから聞かれていたのなら、僕は考える間もなくすぐにそうだと答えただろう。  僕にとって、あの丸い月はそういう物体だった。  男の人は僕の答えを聞くと、あははと笑った後に俺もだと言った。  「俺以外に月が嫌いという奴を初めてこの街で見たよ。なら、いいかい少年、あの月っていうのはな、ここだけの話、全部嘘っぱちの造り物なんだ」  「嘘っぱちの、造り物……?」  「ああ、時に少年はあの月を見てどう思う?この街にいる奴らのように、あの月を本当に綺麗だと思うか?本当に美しいと思うか?少年は、どうなんだい?」  それは、僕も日頃から感じていることだ。なぜ、みんなあの月をありがたそうに賞賛して、まるで愛でるような目をしながら見上げているのだろうか、それが不思議でならない。気味が悪いとさえ思う。  嘘でも僕には、あの月がそんな風には見えないのだから。  僕は答えた。
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