僕のスモールワールド

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 「まあるい飴玉みたいだなって思います」  それを聞いた男の人は、あははと今度は腹を抱えて笑い出した。  「飴玉かぁ!そいつは滑稽だ!少年、君はおもしろい奴だなぁ。あの月を飴玉呼ばわりとは」  男の人はそう言って僕の頭をぽんぽんと叩き、すっと膝を折って僕の目線とちょうど一緒の高さになるところまで屈むと、良いことを教えてやると僕の耳元でぼそりと呟いた。  「少年、君は今夜きっと目にするだろう。あの月が、本当に嘘っぱちの造り物だという確たる証拠を」  おもむろに立ち上がったその見知らぬ男の人は、最後に早く家に帰るんだぞと僕にそう言い残すと、足早にその場を去って行ってしまった。  まるで何かに心をつままれたような心地のした僕は、しばらくその場で呆けたように口を開けたまま丸い月を見上げていた。  そして、ふっと我に返った時、急に得体の知れない恐ろしさが僕の体の中を駆け巡り、僕は、その場から逃げるように家へと戻った。  家に着いた僕は玄関のドアを恐る恐る開けて、その隙間に体をそろりと入れる。  明かりは無い、どうやらお父さんもお母さんも僕が家を抜け出したことには気づいていないようだ。  僕は音を立てないように忍び足で部屋に戻り、ベッドにまた仰向けに寝転がる。  部屋の窓から見える夜空には、あの白々しい飴玉のような丸い月が変わらずそこにあった。  あの月が嘘っぱちの造り物……さっき通りで出会ったあの男の人が言っていたことは、いったいどういう意味だったんだろう?  そうして、また新たな疑問が僕の中で生み出される。  僕にはその答えはわからない、きっとその答えは、あの男の人の中にだけあるのだろうと僕は思った。あの月が何なのか、その答えにあの人は辿り着いたのかもしれない。  だから、僕もいつかは辿り着くはずだ。  本当に、この世界には僕が目にしているもの以外に何もないのかということも、あの真っ黒な空の向こうには、こことは別の世界があるのかということも、こうして見上げているあの月が、いったい何なのかということも。  その答えに、きっといつかは僕も辿り着く。  僕はまた窓から見える丸い月に向かい、右手を銃に見立てて人差し指を伸ばし、立てた親指で照準を合わせ、そして、さっきと同じように、僕はその引き金を、なんの躊躇もなく引いた。  「バンッ!」  その時だった。
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