スマホ猫

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 〝大福〟が居なくなったのは、昨日のことだった。  いつもなら、散歩に行って夕飯前には帰ってくるはずなのに、餌を用意しても一向に戻ってくる気配はなかった。  大福とは、白い毛に黒の斑点がある猫のことだ。豆入り大福みたいな見た目から、大福という名前になったのは避けようがないことだった。  大福との出会いは僕がまだ、小学校三年生だった頃に、近所の用水路で溺れているのを助けて連れて帰ってきたのがきっかけだった。あれから五年経つがこんな事は初めてだった。  元野良猫、ということで、うちでは基本的には放し飼いにしていて、出入りを常に自由にしていた。  それでも毎日、遅くとも僕らの夕飯までには帰ってくるし、人懐っこく、甘えん坊の大福に限って、僕らを見限ることはないと高をくくっていた。  事故にでもあったかもしれないと、僕も両親も外を探し回ったり、近所に尋ねてもみた。だけど一向に見つからなければ、情報も得られなかった。  そのうち帰ってくるかもしれない。まだ昨晩のこと、ということもあって、父がそう言った。  内心、ものすごい不安はあったけれど、僕も帰りを待つことにした。  部屋に帰った僕はスマホを手に取る。落ちた気分を紛らわす為には、手っ取り早い手段の一つだったからだ。  毎日ログインしているパズルゲームを開こうと親指でタップする。 「ニャー」  声がした。僕は慌てて顔を上げる。それから周囲を見渡す。大福の姿どころか、猫の姿はどこにもない。  気のせいかと思い、もう一度アプリを親指でタップする。 「ニャー」  またしても声がした。大福の声に似ている。
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