4. 祢津良太郎、その家族

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「え? 猫の国? どういうこと?」  子どもと子猫に交互に顔を向け、妻が尋ねる。陽太と海美は布団の上にぺたんと座り、補足し合いながらたどたどしく説明した。 「海美たちね、満月の夜だけ、夢の中で猫の国に行って遊んでたの」 「あっちでは猫が、おれたちと同じ大きさで、ちゃんとした家に住んでてさ」 「お茶飲んだりクッキー食べたりしてた」 「で、ほとんどの猫はおれたちのこと、別に気にしてない感じだったんだけど」 「この子たちはたまに、海美たちの後、追いかけてきたりしてて」  そこまで言うと、二人は困った顔で子猫を見つめた。 「ついて来ちゃったのかぁ……」  夢の中から猫を連れて来たなんて、にわかには信じ難い話だ。視線を落とすと、二匹もまん丸な目で祢津を見上げていた。  目が合った瞬間、ハッとした。その水色と金の目に、見覚えがある。胸を締めつけるような痛みとともに、祢津の脳裏に古い記憶が蘇った。  環境生活課に配属されて間もない頃のことだ。物置の下に野良猫が子どもを産んだらしいと、市民から相談があった。祢津が現場に着くと、物置からはミーミーと弱々しい鳴き声が聞こえていた。  捕獲用の棒付き網で引き寄せれば子猫は二匹いて、ボロ布のように汚れてすっかり衰弱していた。数日前に家の前で車にひかれた三毛猫が母猫だったのだろう。二匹は保護されたものの、与えたミルクを飲む元気もなく、結局、くるんだ毛布から出てくることはできなかった。
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