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目を開けたのは、それぞれ一度だけ。茶虎の猫は澄んだ水色の、黒猫は琥珀のような金色の、きれいな目をしていた。
あの時の子たちによく似ている。そう思った祢津は、これも何かの縁かもしれないと、子どもたちに問いかけた。
「その猫……飼いたい?」
日頃から、ペットが欲しいとねだられていた。喜ぶだろうと思った陽太と海美は、きょとんとした顔で首を横に振った。
「それはダメ」
「だって、猫の国に家族がいるもん」
家族。その言葉に、ツキンと胸を打たれる。猫の国が本当にどこかにあって、あのかわいそうな子猫たちが母猫や父猫と楽しく暮らしているのなら、どんなにいいだろう。
「幸せそうだった?」
祢津が聞くと子どもたちは、同じ角度で深くうなずいた。
「そうか……よかった」
微笑んだ父親に安心したらしく、双子はそれぞれ子猫を膝の上に抱き上げた。
「この子たちを、家に閉じ込めたりしたらダメだよね」
「朝になる前に、返してあげないと」
「と言っても、どうしたらいいのかしら?」
妻がもっともな疑問を挟むと、子どもたちはにっこり笑った。
「簡単だよ」
「お月様にお願いすればいいの」
二人は怯えて丸まる子猫を胸に抱いて立ち上がり、掃き出し窓を開けてベランダへ出た。
春の空はすでにほの白く、沈みかけの満月が隣家の屋根の上で待ち構えている。
「お月様、お願いします」
「この子たちを、猫の国に帰してあげてください」
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