23人が本棚に入れています
本棚に追加
陽太の手の上で茶虎が、海美の手の上で黒猫が、顔を上げて月を見つめる。水色と金の目が月を映して明るく光り、二匹の体は双子の手から、ふわりと浮き上がった。
「バイバイ、猫ちゃん。また遊びに行くね」
「もう追いかけてきたらダメだよ」
それは不思議な光景だった。子猫たちはみるみる月に吸い寄せられ、小さくなっていく。
子どもたちはベランダから、祢津と妻は部屋の中から、彼らの影がすっかり見えなくなるまで、じっと月を見つめていた。
「……さて。なんだかクッキーが食べたくなっちゃった。冷凍庫にタネがあるから、朝ごはんはクッキーにしちゃおうかな」
妻の気まぐれに子どもたちは歓声を上げ、オレンジ色と水色のパジャマで飛び跳ねた。
「ちょっと、静かに! 日曜の早朝なんだからね!」
母親に叱られた双子が、ぴたりと動きを止める。二人は顔を見合わせて笑い、軋むベランダでサンダルを脱ぎ散らかして部屋に戻ってきた。
「猫たち、帰りながら何か話してたね」
「おれも猫語が分かればいいのにな」
「あっちもそう思ってるかも」
「猫語ではおれたち人間のこと、なんて呼んでんのかなぁ」
「ニンゲンって呼んでたとしても、ニャアニャアとしか聞こえないでしょ」
子どもたちのおしゃべりを聞いていると、まるで不思議なことなど何もなかったかのようだ。
超常現象に脳が追いつかない祢津を置き去りにして、階下のキッチンからは、妻がオーブンを予熱する音が聞こえてきた。
最初のコメントを投稿しよう!