4. 祢津良太郎、その家族

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 陽太の手の上で茶虎が、海美の手の上で黒猫が、顔を上げて月を見つめる。水色と金の目が月を映して明るく光り、二匹の体は双子の手から、ふわりと浮き上がった。 「バイバイ、猫ちゃん。また遊びに行くね」 「もう追いかけてきたらダメだよ」  それは不思議な光景だった。子猫たちはみるみる月に吸い寄せられ、小さくなっていく。  子どもたちはベランダから、祢津と妻は部屋の中から、彼らの影がすっかり見えなくなるまで、じっと月を見つめていた。 「……さて。なんだかクッキーが食べたくなっちゃった。冷凍庫にタネがあるから、朝ごはんはクッキーにしちゃおうかな」  妻の気まぐれに子どもたちは歓声を上げ、オレンジ色と水色のパジャマで飛び跳ねた。 「ちょっと、静かに! 日曜の早朝なんだからね!」  母親に叱られた双子が、ぴたりと動きを止める。二人は顔を見合わせて笑い、軋むベランダでサンダルを脱ぎ散らかして部屋に戻ってきた。 「猫たち、帰りながら何か話してたね」 「おれも猫語が分かればいいのにな」 「あっちもそう思ってるかも」 「猫語ではおれたち人間のこと、なんて呼んでんのかなぁ」 「ニンゲンって呼んでたとしても、ニャアニャアとしか聞こえないでしょ」  子どもたちのおしゃべりを聞いていると、まるで不思議なことなど何もなかったかのようだ。  超常現象に脳が追いつかない祢津を置き去りにして、階下のキッチンからは、妻がオーブンを予熱する音が聞こえてきた。
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