1. リオンとサラ

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1. リオンとサラ

 真っ黒な空に、ママが焼いたバニラのクッキーみたいな満月が光ってる。 「いこう」  僕はサラと小さくうなずき合い、二階の窓から部屋を抜け出した。  ベランダの柱を伝って物置きの屋根に乗り、生垣を飛び越えたら、そこはもう外の世界だ。  パパとママはきっと、僕らがぐっすり眠っていると思い込んでいるだろう。 「リオンったら、窓はもっと、そぅっと開けないと!」  黙って後をついてきたサラが、家に声が届かない所まで来てから小言を言う。双子だってのに、そういうところがやっぱり女の子は賢い。 「サラこそ、さっき物置きの屋根がドンッてなったよ? 甘いもの食べすぎなんじゃない?」  悔しまぎれに言うと、間髪入れずにボカッと頭を殴られた。可愛くて優しいと男子に人気のサラも、きょうだいの僕に対しては容赦がないのだ。 「バカなこと言うと、殴るわよ!」 「もう殴ったじゃないか」 「気のせいじゃない?」 「まさか」 「シッ!」  サラが話を遮り、足を止める。金色の目の動きを追って道の向こうを見ると、突き当たりの公園に、僕らのお目当ての姿があった。 「いた!」 「うん。この前と同じネコよね。オレンジと、ブルー」  二匹のネコは、滑り台で遊んでいる。僕らと同じように、交替で上っては滑るその姿はなんだか可愛くて、ずっと見ていても飽きることがない。
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