02

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石畳の道を踏みながら、人混みの中へと飛び込んでいくジャック、ウェル、アイルーラの三人。 町には屋台が出ており、そこにはキャンディ、クッキー、チョコレートなどのお菓子が売られていた。 中でもドーナツやパンケーキが人気なようで、広場にあったテーブルやイスに腰を下ろして、皆がそれらを楽しんでいるのが見える。 町中からお菓子の甘い匂いが漂っており、アイルーラは両目を輝かせながらその光景を眺めていた。 その中でも特に彼女が気になったのが、中央に十字の模様の入ったショートブレッドのようなお菓子だ。 そのお菓子は他のものとは違って派手さはなかったが。 一種類だけ偏ってお菓子を食べる人が多い中でも、その地味なものは必ず誰もが口にしていた。 アイルーラがそのことに気になっていることに気が付いたジャックとウェルは、互いに顔を合わせると、彼女に向かって言う。 「アイルーラはあのお菓子が気になるのか?」 「さっきから見てるよね?」 つい足を止めてしまったアイルーラは、お菓子を見ていたことを恥ずかしく思ったのか、二人の手を離して慌て始めていた。 「いや違うの! 別に食べたいとかそういうんじゃなくて……見たこともないお菓子だったから!」 アイルーラの慌てぶりが面白かったのか。 ジャックとウェルは微笑みながら彼女にお菓子をプレゼントすると言い、それぞれ屋台へと走っていった。 その間、少し待っているように言われたアイルーラは、改めて町を眺めていた。 カボチャのランタンで飾られた町。 その中を歩く住民たちの仮装した姿。 そして、カラフルなお菓子がその光景に色彩を加えている。 まるで精霊が住む町みたいで綺麗だ。 そう思っていたアイルーラの目に、町を歩いていた子連れの夫婦が目に入った途端、突然頭がズキンと痛んだ。 「今のは、なに……?」 痛みと共に何かを思い出せそうになったアイルーラ。 彼女が頭を抱えていると、そこへジャックとウェルが戻ってきた。 「買ってきたぞ、アイルーラ!」 「とりあえず全種類買ってきたけど、何から食べる? やっぱり気になってたソウルケーキからにする?」 買ってきたお菓子の入った袋を高々と掲げるジャックの横で、ウェルが訊ねてきた。 どうやらアイルーラが気になっていた十字の入ったお菓子の名は、ソウルケーキというらしい。 ウェルの話によると、このお菓子はサウィンハイムで行われているお祭りの象徴のようなものらしく、特別な意味があるようだ。 「その特別な意味ってなんなの?」 「それはね。閉じ込められている魂のためのお菓子なんだよ」 ウェルは優しく教えてくれたが、正直いって話を聞いてもアイルーラには意味がよくわからなかった。 だが意味なんて気にしないでいいとジャックが言い出し、三人は広場にあったテーブルについてお菓子を楽しむことにする。 アイルーラは、まず気になっていたソウルケーキを食べた。 スパイスの変わった甘みが口の中に広がっていく。 食感はブレットのような見た目とは違って、ビスケットに近い感じだ。 「どうだ、アイルーラ? 初めてのソウルケーキの味は?」 「口に合うといいんだけど」 ジャックとウェルがテーブルから身を乗り出して訊いてきた。 アイルーラはビクッと驚いてしまったが、すぐに彼らに笑みを返す。 「うん。食べたことない味だけど、すごくおいしい」 「だろ!? うまいだろ!? オレの一押しなんだから当然だよ!」 「おいしいならよかった。まだまだあるからいっぱい食べてね」 それから三人はテーブルに山積みになったお菓子を食べ、他愛のない会話を楽しんだ。 アイルーラはもう自分が記憶をなくしていることすら忘れて、ジャックとウェルと会えたことを心の底から喜んでいると――。 「痛い……また……また頭が……」 先ほど彼女を襲った頭痛がした。 苦しそうな彼女を見たジャックとウェルが慌てて心配するが、アイルーラの痛みは消えるどころか次第に酷くなっていった。 「どうしよう!? あーどうすりゃいいんだ!? おいウェル! なんとかしろよ!」 「できたらやってるよ! 大丈夫アイルーラ!? ちょっと横になったほうが――ッ!?」 しばらく俯いて呻いていたアイルーラは、いきなり顔を上げて席から立ち上がった。 彼女は何を思ったのか、真っ青な顔のままジャックとウェルの前から走り去っていく。 その瞳が涙で滲んでいたのに気がつき、彼らは顔を歪めながらアイルーラのことを追いかけた。 「クソッ! 急にどうしたんだよ、アイルーラはッ!?」 「きっとジャックがソウルケーキなんて食べさせたからだよ!」 「あん!? オレのせいだってのかよ!?」 「いやボクも悪いけど……。ともかく今はアイルーラに追いつかなきゃッ!」 ジャックとウェルは揉めながらもアイルーラの背中を追ったが、急に彼女の姿が目の前から消えてしまった。 唖然と立ち尽くしていた二人は歯を食いしばりながらも、互いに顔を見合わせてコクッと頷き合う。 「アイルーラは気づいちまったみたいだな」 「ならボクたちがすることは一つだよ」 ――暗闇の草原にアイルーラはいた。 彼女が泣きながら当てもなく歩いていると、気が付けば目の前に崖があった。 険しく切り立ったその場所から下を眺め、アイルーラは一人涙を流す。 「待てって、アイルーラ!」 「行っちゃダメだよ!」 そのときアイルーラの背後にジャックとウェルが現れた。 息を切らして走り寄ってくる二人のほうを振り返り、アイルーラは泣きながら笑みを見せる。 「全部……思い出したの……。アタシ……もう死んでいるんだね」 それからアイルーラは、戻った記憶について話し始めた。
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