嵐の到来

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嵐の到来

「おやおや、可哀想に。濡れちまったねぇ」  翌月のお使いは、大雨に降られた。ぬかるむ道を急いだのに、ヒルダおばあちゃんのドアを叩いたときには、あたしはずぶ濡れになっていた。それでも、ローブの中に抱えてきた籠が無事でホッとする。 「ほら、こっちにおいで」  おばあちゃんはあたしのローブを暖炉の前に干すと、裾から水滴を垂らすワンピースを眺めて首を振る。 「その服も乾かすでな」  寒さに震える手で重くなったワンピースをガバと脱ぐ。コトン、となにか音がした。 「おや、これは……」 「あっ、それは……!」  床に落ちたものを見て息を飲む。 「こりゃ、象牙だね。高価なモンだ」  おばあちゃんの指先には、食堂で拾ったボタンがある。ポケットに入れたまま、取り出すのを忘れていた。 「ほう、紋章があるね……」  でも、この服は何度も洗濯している。どうして今頃――。 「コイツを、どこで手に入れたね?」  口調は穏やかなのに、シワの奥の瞳が笑っていない。窓の外で雷が光る。陰影を刻む表情が、怖い。 「それは……道で、拾ったの」 「ミア。嘘はおよし」  いつも優しいけれど、目の前にいるのは魔女だ。ブルリと身体が震え、あたしは腹を括った。 「ごめんなさい。うちの食堂で拾いました」  促されるまま、先月の夜のことを話した。 「……そうかい」  話を聞いたおばあちゃんは、悲し気に俯くと、今更ながら椅子を勧めてくれた。魔法にかかったみたいに、ストンと椅子の上に腰が落ちた。 「そろそろ、本当のことを知るときが来たのかもしれん」  テーブルにボタンを置いて、おばあちゃんも椅子に座った。また強く光が走る。当分、外には出られない。
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