42人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
プツ、プツ、ジ
黒く大きなシルエット。四つん這いの獣。
男の視線の先に黒い犬がいた。
ドーベルマンに似たゴージャスな犬がこちらを睨んでいる。
ベルベットの質感にシルクの照りを放つ毛並み。毛というよりも鞣した革のような湿り気。未だ虚ろな瞳が犬の輪郭を辿り、また上部に戻る。
それにしても犬というには驚くほど巨大であった。双眸と双眸がピタリ重なる。瞳は心の奥に繋がる窓である。視線を逸らした側が敗者。と、対峙するほどに獣の内なる怯えを捉えた。奥まで探れど負け犬の弱音しか見えてこない。
男は満足し、視線を別に移した。
首輪である。
真紅に滑るイタリアンレザー。見るからに上質の。
表面に模様が刻印されている。
繋がる銀鎖は犬の首元から落ちてスネークのように這い──プツリと途切れていた。
最初のコメントを投稿しよう!