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プツ、プツ、ジ 黒く大きなシルエット。四つん這いの獣。 男の視線の先に黒い犬がいた。 ドーベルマンに似たゴージャスな犬がこちらを睨んでいる。 ベルベットの質感にシルクの照りを放つ毛並み。毛というよりも鞣した革のような湿り気。未だ虚ろな瞳が犬の輪郭を辿り、また上部に戻る。 それにしても犬というには驚くほど巨大であった。双眸と双眸がピタリ重なる。瞳は心の奥に繋がる窓である。視線を逸らした側が敗者。と、対峙するほどに獣の内なる怯えを捉えた。奥まで探れど負け犬の弱音しか見えてこない。 男は満足し、視線を別に移した。 首輪である。 真紅に滑るイタリアンレザー。見るからに上質の。 表面に模様が刻印されている。 繋がる銀鎖は犬の首元から落ちてスネークのように這い──プツリと途切れていた。
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