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項垂れれば項垂れ、起てば起つ。 男と全く同じ動きをする。鏡映。 正面にあるのは鏡で、映っているのは犬に身をやつした己自身だった。 否、九割ほど犬で一割が人間という犬人間。 否、犬の皮の中に閉じ込められた哀れな人間。 おそらく最後の答えが一番相応しいだろう。 一番は心的表現過ぎる。二番は滑稽過ぎる。鏡に映る姿をつぶさに観察すれば、三番目がそのままの状況を一番いい当てていると思えた。 大きな鏡のフレームはゴシック調で、凹凸の陰影濃いリーフ模様や花の装飾が鏡面を囲む。犬の姿を描いた名画のごとく室内を傲慢に支配していた。 剥げた塗装にシャンデリアの明かりがアンティークな荘重さを与えている。本物なのか、古びて見えるような化粧を施されているだけなのか。 いずれにしても古城に囚われているという錯覚と幻想を齎す道具立てだった。 口枷のいかがわしさに、革の裂け目から溢れる皮膚と陰茎と陰毛が人間らしさを表している。 ジー ファスナーは肛門の上、尾てい骨を終着点として表は臍下から性器の上を通るように犬型の皮に縫い付けられていた。 ファスナーを下ろすという行為が、そのまま愛撫となるように。 ぴたりと計られている。撓みなく。興奮時の角度やサイズまで恐らく──
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