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「貴様は下劣な犬だ」と。
深い色味を含む艶のある声だった。対義するものの境界が曖昧な。世界の枠組みの外にいるような。
滑らかなのに少し掠れた倦怠感はレコード針のノイズと似ていた。
骨ばった細い指で低めた顎を上向かされる。
ルビーにサファイア。財力の象徴がコンパクトに加工され指を飾っている。視界を過る肌はプラチナのごとく白く発光していた。
鏡を見ろと命令を耳に吹き込まれる。唾液の音の混じる囁きに、全身の血が股間に集中した。
ふっと掠めるスパイシーな香りに反応して人中を縮めると獣らしい顔つきになった。
さんざん嗅いできた。長い人生に添うあらゆる香の中から探る。
トップ、ミドル、ラストノート。香りのピラミッドからくゆる透明の香気。記憶のファイルが捲られていく。
「うう……」
今度は胸の上のファスナーが横に引かれた。
剥かれた両乳首は固く尖っていた。
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