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仕舞い込まれた記憶がパフュームによって引きだされ人の姿を象る。 支配者の白い手の内で温められた紐が引かれると男の尻が後ろにさがった。 仕込まれたのはアナルフックで、先に結ばれた紐は犬用のリールだった。 前進なら四つん這いでも姿勢を正せるが、後ろ向きではバランスを保つのが難しい。 負け犬と罵られ、屈辱で滲む汗の匂いが内に充満して噎せた。 醜悪たる絵図は支配者の貴族的な足運びにより歪な高潔さを保っていた。 鏡から遠ざかるにつれ時折映りこむ支配者の姿。 緑色のシャツを羽織り、血の透けた青白い首に巻き付いた真珠は光を反射して虫の腹のようにうねっていた。 真紅の絨毯の上を泳ぐ白い毛皮。四つん這いで尻を向け従う無様な犬。 声も容姿も男女の境がない。 十センチは超える高いヒールを絨毯に突き刺しながら男を見下ろしている。 毛皮で覆われていても優美なラインを描く筋肉の発達した野性的な脚が想像できた。 途端に心を読まれ鞭打ちを食らった。
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