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さよなら、澪
サイレンが鳴り響く中、柊はまったくその音が聞こえないかのように落ち着き払っていた。
「美術教師が軍人の霊に驚き、飛び出して、はねられたのと同じ満月。
今日、ここで肝試しをやるのは嫌だった。
『奴』が現れそうな気がしたから」
奴……?
柊を目を伏せて言う。
「でも、来ないでいることはきっとできない。
それに……」
それに? と柊を見たとき、軍靴の音が下の階から聞こえてきた。
階段の方をうかがいながら、柊は言う。
「澪。
俺はずっと知っていたんだ――。
いつかこの日が来ることを」
割れるようなサイレンが窓の外、赤い空に響いている。
空が赤いのか、町が燃えているのか。
周囲の建物が焼け、火の粉が降ってくるのが窓越しに見えた。
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