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七不思議 満月ノ夜ニ――
柊に突き飛ばされた澪の目には、寂しげな柊の顔が焼きついていた。
澪は階段に叩きつけられる自分を想像し、身構える。
だが、誰かがふわりと澪を抱きとめた。
「まだこんなところに人が居たのかっ。
民間人かっ。
早く逃げろっ」
自分を抱きとめ、叫んだ男を見て、澪は叫ぶ。
「柊っ」
青年将校のような格好をした、凛々しい横顔のその男は柊に瓜二つだった。
だが、澪が柊の名を呼んでも、彼は反応せず、澪を抱いたまま叫ぶ。
「走るぞっ。
しっかり掴まって、煙を吸い込まないよう息を止めていろっ」
その軍人は澪を抱き、木造の建物を侵食しようとする炎の隙間を縫って走った。
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