1 理想のイケメン、現る

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 近づくとなかなかに背が高い。それに彫りが深く整った顔立ちは、ただ格好いいだけでなく人目を引きつける華がある。その立ち姿はまさしく「水も滴るいい男」というやつだろう。  しかし今、私は通りすがりのイケメンに見惚れている場合ではなかった。 「これって盗撮だよな?」  彼は私の手首をガッチリ掴んだ。そしてこの手には、カメラモードでチカチカ光るスマートフォンが握りしめられている。これ以上の現行犯逮捕はないだろう。 「じゃあ、警察に行こうか」 「ちょ、ちょっと待ってください!」  見苦しく抵抗する私を前に、彼は眉をひそめた。  ややつり上がった目元と薄い唇からは、ふてぶてしさがありありと感じられる。これが笑顔になったらいったいどんな表情を見せるのか――と、思わずまた妄想を働かせそうになる。 「あの、データは消しますから」 「そういう問題じゃないだろう。というか、今のは完全に罪を認めたよな」  鋭く睨みつけながらも、彼は空いていた向かいの席に腰を下ろした。人目を引かないための善後策だろうけど、こちらとしては話し合いの余地が生まれた気がしてものすごくホッとする。  髪にはしずくがついたまま、ジャケットも肩から濡れている。本当はそっとハンカチでも差し出してあげたいところだけれど、この状況では――。
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