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彌生さんが俺の顔に近づくその人の手をどけた。
「なんだよ、可愛い顔してるから代わりに俺が相手してやってもいいと思ったのに」
「結構です。生憎そういう趣味はない。」
「なんだよ、つれねぇな。行こうぜ。彌生…」
二人は腕をからめあって店を出ていった。
そんな二人が出ていくのをなんとなくボーッと見送った。
マスターがそんな俺にカクテルを作ってくれた。二層になってて甘くておしゃれなやつ。カクテルの名前を言われたけどそんなの覚えてない。
もともとカクテルなんか詳しくはないし、普段カクテルなんて殆ど飲まない。身体に染み渡るアルコールのせいか彌生さんのせいか一気に脱力感が増した。
頭の中が空っぽになりそうだ。
その後、スマホに電話がかかってきた。
「もしもし?僕だけど、今どこ?」
香田さんだ。外にいるのか雑音でよく聞き取れない。
「え?」
「あとで迎えに来れる?いつものラビリンスまで…」
なんだ?俺を誰かと勘違いしてる?椎名さんか…。椎名さんだと思って話してるのか…?
椎名さんに連絡するべきだろうか。
「えっと…」
色々電話で俺の今のこの状況を説明するのもめんどくさい。ここに迎えに来いだなんて。すでにもうここにいるし。まあ、いいか。
もう酒を飲んでるしここへは車で来てない。だから香田さんを家まで車で送ることはできないけど。
勝手に間違えたのは香田さんの方だ。俺は悪くない。なるようになるか…。
「わかりました…」
それからまもなく香田さんが店にやって来た。酔った俺は…。そのあと…。
香田さんを連れ帰ろうとして話したけど。
それからどうしたんだっけ…。
それからどこをどう帰ってきたのか、いつのまにか家に帰ってきて寝ていた。
気がつくと自分の部屋のベットの上で横になりながらながらさっきまで店で起こっていたことがなんとなく頭のなかに甦り、夢なのか記憶なのか曖昧なまま、眠りに落ちていた。
*
彌生さんが店を出ていき、しばらくしてから。
入れ替わるように香田さんが店に入ってきた。そんな香田さんの後から不細工なロン毛の男が追いかけるようについてきた。座る香田さんのすぐ横に座り横顔をじっとみていた。
香田さんはカウンター席で背を向けてる俺にはまだ気づいてない。
「ねぇ…。いいじゃん…。」
ロン毛が香田さんに声をかけた。
「今日はマスターに会いに来ただけだから♪」
「またそんなこと言っちゃって。」
「悪いけど君と今晩、過ごすつもりはないから」
「じゃあ少し付き合ってよ。一杯だけ…。一緒に飲むくらいはいいだろ?ご馳走するからさ…」
そう言ったロン毛の男の手がさりげなく香田さんの背中に触れてゆっくりとなで回した。
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