77人が本棚に入れています
本棚に追加
「はい。ビールおまちどうさまです!」
「あれ?いいねぇ元気で。君、いくつ?」
「はい。19才です。」
「あー。見た目よりも若く見えるね。元気で威勢がよくていいじゃん。キラッキラに輝いてる。」
「アザッス。」
「君、名前は?」
「はい、健太郎っす。」
「健太郎くん。君いいね。」
「アザッス。」
「またなんか頼んだら君が持ってきてくれる?」
「はい。なんなりと!
すぐにお持ちします!まいど!」
そう言って去っていった。
そのやり取りを怪訝なおももちでヒビキがさっきから見ていた。
「あんな子供にまで声かけて節操無いな。そうやっていつもすぐ手を出すんですか?」
「手を出すだなんて人聞きの悪いことを。ただ話しかけただけだから。子供って言うけどさ、君とそんなに変わらないだろ?」
「19なんてまだ子供です。ついこの間まで高校の制服着てたんですから。」
「やだなぁ、さすがに僕だって手は出さないよ?子供は趣味じゃない…。」
「どうだか。鼻の下伸ばしてましたよ。ほんと、手当たり次第なんですね。」
「大丈夫だよ、あの子には手を出さないから。せめて君くらいの年にならないとね。」
なんとなくそう言うとヒビキが耳を赤くした。
「ぼ、僕ですか?」
「ハハハ。そんな軽蔑するような顔すんなって。ただの例え話だよ。絶対君に手には出さないから安心しなさいよ。第一、君みたいなめんどくさいやつはごめんだからね…。」
話の勢いて何となくそんなことを言った。別に深い意味はなかったし、本気で言ったわけじゃない。
それなのにヒビキはムスッとしてなにも答えなかった。
ほっとしたような少し怒ったようなよくわからない表情を浮かべ、ヒビキは黙々と目の前のものを口に運んだ。
気を悪くしただろうか…。
ていうか、なんだよ。こんなやつの気持ちを気にするなんて僕らしくないじゃないか。どう思おうが、どう思われようがしったこっちゃない。
はず、なのに…。なんでだ?
そういえば人にどう思われてるかなんて、普段気にしたこと無かったな…。
今日は酒が美味しくて随分飲んだから、いつものように迎えを頼むことにした。
相手はヒビキだし、席をはずすのも面倒だからそのまま席に座った状態でスマホを耳にあてる。
「あ。椎名くん?僕だけど…。
うん。来てくれる?
今日はそのまま泊れるんだろ?
うん。明日の支度してきてね。
じゃあ、後でね…。」
通話を終えると目の前のヒビキが聞こえないふりをしてたけどチラッとこっちを盗み見る真似をした。
「なに?」
「いえ。別に。」
二人とも黙った。変な沈黙が走った。
賑やかな飛び交う声や皿同士が当たるような音がやけに響く。笑い声もしゃべる声もこんなにうるさかったと初めて気づく。
「なんだよ。へんな顔して…。」
「いえ…。」
「フフフ。どうせ知ることだから言っちゃうね。隠すつもりはないけどね。そうだよ。今の電話の人は僕のパートナーのうちの一人だよ。事務の椎名くん。今からここに迎えに来てくれる。
僕にはもったいないくらいのいい男だよ。だからね、僕は別にそんなに相手に困ってないから、安心してよ。
そんなに君が心配するほど誰彼構わずなんか、実際のところそんなに不特定多数を相手にしないから。」
するとヒビキはまた少し嫌な顔をした。
なんだって言うんだよ…。
軽蔑したか?僕のこと…。
なんてさ。また気がついたらそうやって気にしている自分はなんだか少しおかしい。
あんまりにもこいつが堅物だからだ。無実の罪を着せられたみたいな不愉快な気分だ。
こんなガキにさっきみたいに節操がないとか言われるのが癪だったからかな。
最初のコメントを投稿しよう!