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「別に一緒にしてないよ。ヒビキと僕とはそもそもベースが違うだろ?」
「何のベースですか?」
「僕はもう随分前から女全般に興味がない。違うだろ?ヒビキはさ」
「……」
「なに、黙っちゃって。まさか違うだろ?お前は男が好きな訳じゃないだろ?」
「だけどなんか、側にいたら香田さんやその周りの人たちに影響されちゃいそうだ。」
「は?それ、本気で言ってる?」
「もちろん冗談ですけど」
「冗談なんか、言うんだ、ヒビキも」
「そういう世界はあまりよくわかりませんけど、香田さんのその事については一応理解はしてるつもりです…」
「お前には理解なんか出来ないよ。僕の事なんか」
「……」
「お待たせしました」
向こうから歩いてきた声に振り向くと専務の碧斗と秘書が歩いてこっちに向かってきた。あのいつもそばにいるイケメンの秘書はハーフでいつ見てもとても美しい…。金髪のサラサラヘアに青い瞳が印象的だ。あの彼が僕の愛おしいこの人を手にいれたことなんてもうとっくの昔に気づいてる。二人がずいぶん前からそんな関係だってこと。
「いえいえ、とんでも無いです。お忙しいところ時間を割いていただいてこちらこそすいません。」
僕の方が少し先輩だけど、大事な取引先の専務だから言葉遣いには気を付けている。心の内側とは裏腹にちゃんと仕事相手として事務的な挨拶を交わした。
「今日はなんだっけ、そっちの彼は?見ない顔だね」
その話し方も声も表情もあの頃と変わらない。少し生意気な雰囲気と、強気な話し方。
「はい、先日のご依頼の件の見本のサンプルと資料をお持ちするついでに、今日は新入社員のご挨拶をかねて顔を見せに伺いました。」
「あぁ、君ね。」
「町田響と申します。よろしくお願いします。」
僕が熱い視線を送る先に専務の碧斗が立っている。響の目にはいまどんな風にそれが映っているんだろう。
なんて…。
またそんなつまらないことを考えてる自分が可笑しい。
自分がどう思われてようが考えることもなかったはずなのに。
最近はこの堅物のコイツが僕をどうみてるかがどうも気になって仕方ない。
また後でなんだかんだと屁理屈を言っては口を出してくるに決まってるからだ。
あの時のあなたはこうだった、なんて。またどうせなんかダメ出ししてくるに決まってるんだから…。
案の定。
帰り際にやっぱり口を出してきた。
「香田さんにしては珍しく、緊張されてましたね」
「そう?」
「あんなにドギマギして、まるで憧れの芸能人にでも会ってるみたいな姿でしたよ」
「何をもってそんなことを言うんだよ、お前は。」
「だって、見るからにそうでしたもん」
上司の僕を捕まえて、からかうようにそう言ってくる。生意気にも程がある。僕のことをなんだと思ってるんだ。全く怖いもの知らずもいいとこだ。
「そうかな?いつもと変わらないけど?」
「そう思ってる時点でもう、見えてないんですって。もう自分の事が」
「さようですか。相変わらず生意気な奴だね。まあいいや。さ、帰ろ。」
本気で起こるのもバカらしい。僕は大人で、こいつはまど大人になったばかりのひよっこだ。
「あ、僕は社に戻ってまだやることがありますので。」
「そっか。じゃあここでお別れだね。僕は行くところがあるし、もうこのまま直帰だから。」
「はい…。お疲れ様でした…」
「じゃあね。おつかれさま…♪」
「あれ…。今日はご飯に誘ってくれないんですね…」
「え?だって、社に戻るんだろ?」
「そう、ですけど…」
「僕もこれからちょっと行くとこあるから…。ご飯はまた今度誘うよ♪」
「別に誘ってくれなくていいですけど」
「どっちなんだよ。全く」
「ただ聞いてみただけです。お疲れ様でした。」
ほんと、へんなやつだ。ヒビキ…。
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