籠中の鳥の見る夢は

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籠中の鳥の見る夢は

 ベットに横たわる僕の隣で気持ち良さそうに寝息を立ててる愛しい人の寝顔をそっと見つめる。  さっきまで響いていた僕たちの艶かしい声や肌のふれ合う音や唇の隙間から漏れる吐息の余韻に浸りながら、僕はいま、この幸せを噛み締めている。  僕が鳥籠の中で見ていたその夢の続きは、僕が思うよりずっと、蕩けそうに甘く、蜜のように濃厚で、日の光よりも眩しく、春の日差しよりも穏やかであたたかかった。  籠の外の世界は僕が思うほど悪くもなかった。ずっと、閉じ籠っていた僕をそこから出してくれたのはヒビキだ。  囚われていたはずの苦しみの籠から飛び出た僕はいま、ヒビキと言う名の鳥籠に囚われ、彼から抜け出せなくなっている。  もう、そこから出るつもりもない。僕は僕の居場所を見つけた。  ずっと、僕自身とこうして向き合うことを恐れてきた。本気で誰かと愛し合うことも避けてきた。そんな弱い自分に向き合わずにきた。だけど。  ヒビキにそうすることの喜びを教えてもらったから…。 『本気で向き合わなかったら、相手も本気で向き合ってくれないよ…。』 『僕は本気で向き合ってくれる人にしか僕を捧げない…。』  頑なにそう言っていたヒビキが僕に言ったその言葉は、僕にちゃんと向き合って欲しいと言う意味だった。  今この目の前のこいつに本気で恋をしている。本気で初めて向き合ってる。僕の全てをさらけ出してる。  こんなに生意気なやつに、僕は僕の弱さも見せてるし、時には甘え、泣きたい時は泣く。  いつもそばにいてくれるから。一緒に泣いてくれるから。甘えさせてくれるから。だけど僕だってこいつを僕が守ってやると決めた。  もう、他のやつなんかに気持ちが揺らぐことはない。ここが僕の居場所だから。  僕にはこのヒビキさえいてくれたらもう、他の愛なんか必要ないから。  明日もこうして隣で添い寝をしたら、ヒビキの腕のなかで僕はヒビキの夢を見るだろう。  あの、籠の外に出たがっていた頃の僕が見た、ヒビキとの夢の中で見た夢の続きを。
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