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「マスターのせいだよ?マスターが突然僕を突き放したりしたから。僕を急に抱いてくれなくなったから仕方なく僕はこうなった」
「俺のせいにするな。」
「だって実際そうだよね?」
「なんだ、今日はそんなことわざわざ言いに来たのか?」
「まさか。まあ安心したよ。今日もちゃんと元気で生きてた♪」
「なに言ってんだか。お前こそ元気にしてたのか?」
「マスターこそかわりない?」
「アァ。この通り相変わらず。お前が顔を出さなくなったからお前に会いたがってる奴が多いんだ。京丞とかな。来るといつも聞かれる。お前のこと」
「だからさ、その僕を突き放したのはマスターの方じゃん」
「突き放した訳じゃない。
お前は俺に依存してばかりだったからな。ほら、可愛い子にはなんとやらだ。お前も自分で幸せを見つけないとな」
「別に僕はあの頃だってマスターと居て不幸せじゃなかったのに…」
「お前はお前だけの好い人を見つけて幸せにならないと。俺みたいになっちゃいけねぇ。」
「なにいってんの今さら。」
「珖眞とは会ってるのか?」
「まあね、職場で顔は合わせる。」
「なんだそりゃ…。なんかお前らしくないな」
「なんだよ、僕らしくないってさ…」
「珖眞も全くこっちに顔を出さなくなったしな。そういや、フミトなんか来る度に寂しがってる。珖眞はどうしたんだってさ。連絡もつかないらしい」
「あいつには出来たから。大切な人」
「え?なんだ、じゃあ振られたのか。公和…」
「それは言わないでよ。」
「そういえばこのあいだ鈴木君も振られたって酔っぱらって嘆いてた…珖眞君に」
「ふん。当然だよ。あいつなんか珖眞君とは釣り合わない。振られて当然だよ…。鈴木君も相変わらずここに顔だしてるんだ…」
「アー。あいつはしょっちゅう来るさ。うちの常連様だよ。」
「ふーん」
「で?今日は?もうこんなところに来なくたって充分、相手は間に合ってるはずだろ?」
眉毛を上げて呆れたような顔でわざとこっちをみてくる。そうやってまた僕をつきはなそうとしてるのなんかお見通しだ。僕がマスターに甘えてたって僕が幸せになんかなれないんだって知ってるから。
マスターは僕に本気の恋をしろと何度も言ってくる。いい加減に昔のことを引きずるのはやめて前を向けとその顔が僕に訴えてくる…。
「だから今日は生存確認に来たんだよ。マスターの顔見に来ただけ。別に男を漁りに来た訳じゃない。」
「なんか…、あったか?」
「別に…。ないよ…。なにも…」
「そうか。話ならいくらでも聞いてやる。」
静かにそっと僕の顔色を見ている心配そうなマスターの視線がくすぐったい。
「まだ酒を飲む時間じゃないだろう?今はこれにしておけ」
「ありがと♪」
なにも言わなくても出てくる僕の大好きなアイスコーヒーに口をつける。
マスターはちゃんと僕の好きなものをわかってる。
そうして向けられる深い眼差しは何でもお見通しのような気がした。
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