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始まり
僕の人生は僕のものであって僕のものではない。
生まれた時からすでにそれは決まっていて、いつだってあの父の手のなかにいた。
父が決めた道筋を辿って大人になり、父の息のかかった会社に就職した。その過程で僕に選択肢などなかった。
僕は父が囲う鳥籠の中の鳥だ。
そんな僕に自由など、無い。
父の後を継ぐ出来のよい兄の豊和とは常に比較され、子離れ出来ない母には四六時中監視され束縛される毎日。
僕より勉強も出来て何でも器用にこなす兄には何をやっても到底敵わない。学力も仕事の能力も。
そんな兄のそばで僕は常に兄の影武者のように振る舞い、兄を引き立て、支える事だけがこの世に生をうけ与えられた役目のように感じていた…。
父にとってこの僕自身など、それ以外何の価値もないものなんだとさえ感じていた…。
だからこうして僕を取り巻く彼らだけが…。彼らの中では脇役なんかじゃなくいつも主役でいられるそこだけが。
こんな僕を、必要としてくれる彼らだけが…。
僕のオアシスだった…。
いつも女たちは利害関係と損得勘定で僕に接してきた。欲しいのは僕自身じゃない。僕を取り巻く環境や僕の後ろにあるものに価値を見いだし、僕の隣にいることで自分の格を上げる。そのためのお飾りとして僕を欲しがった。
僕の全てを受け止める気なんかない。彼女らにとっては、自分のために僕が居たのだから。
思春期だったほんの若い頃はそんな女たちとも手当たり次第付き合った。気が向けば普通に女を抱いた。だけど一向に満たされない毎日だった。
だけど彼らは違った…。
そんな女たちのように自分の目的を果たすためなんかでなく、ただ彼らは僕のそばに居たがった。
なにかを得るためなんかじゃなく、ただ僕のそばに居たいと言って求めてくれた。
だから僕は自分の寂しさを埋めるために、そばに居てほしい気に入った子にはいつも声をかけた。
そんな僕の元にあいつがやって来た。僕の直属の部下として…。
だけど、あいつだけは他の奴と少し違った。
僕のそばに居たいくせに。
僕を遠ざける。
僕に触れていたいくせに。
僕を拒む。
僕をあんなに好きなくせに…。
僕を…
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