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二人の関係はフラットだし、お互いに詮索しない、束縛しない、固執しない。
本当にお互いにしたいことだけする気楽な関係だ。
嫌なことは僕に絶対しないし文句や不満も言い合わない。責めたり怒ったり貶したり罵ったりもしない。
だから喧嘩にもならない。
職場で彌生は営業部の主任をしているから僕とは仕事の上でもよく関わる。僕のいる都市開発課の仕事にも多く関わってる。
普段、職場では適度な距離をとっているから、社内では普通に同僚のような立ち位置だ。二人のそんな関係を隠してるわけではないけれど職場でいちゃつくこともないから見た目には仲のいい男同士のただの同僚のような絶妙な距離感と雰囲気だ。周りのやつが本当はどう思ってるかは知らないけど。僕はゲイであることを別に隠していない。
だけど彌生と付き合っているのかと言われたら付き合ってはいない。
プライベートではこうして定期的に会うから、身体的には特定のパートナーかと言われたらパートナーだ。
彌生とはこうして何年も前から定期的に会い、こうして肌を合わせている。事が済むと軽くお茶でもした後みたいなのりでサラッと帰っていく。時にはこうして気が向けば朝まで抱き合い、一晩泊まっていったりするけどだいたい事がすんで身体が充たされると彌生は帰っていく。
そんな関係なのは彌生だけじゃない。僕の運転手をしょっちゅう頼んでる椎名は最初は送り迎えだけの関係だった。最初は…。
だけど送ってもらってるうちに話し相手をして欲しくなって酒の相手をさせたりして。
椎名は男が性的対象じゃなかったからそのつもりでいたのだけど、そのうち酔って僕におかしな視線を送ってくるようになって。
気が付いたら今のような関係になってた。そうしたのは僕の方だ。僕が彼をこっちの世界に引きずり込んだ。
こんな私生活が乱れてるのは自覚してる。
我ながら僕の性は歪んでいるし、こんな関係は少し変わってると思う。
男たちが出会いの場所にしている駅のそばのカクテルバー『ラビリンス』にも通い、気が向けばその日の相手を待つ。どちら側も行ける僕は気に入れば不特定な奴らとその日限りの相手をするし、気に入った顔馴染みのやつと身体の関係をもつ。そこにはそんな相手も何人かいる。抱いたり抱かれたりしながら。
髪の毛が長いサラサラの黒髪に着物がよく似合う和風な美男の京くんとは、店で会えば毎回床を共にする。京くんもいつも長居することはないから、店で会うと二人になれる場所に移動し、三時間程度で別れるのがいつものパターンだ。
僕には何人もそうやって相手がいるけれど誰とも本気では付き合ってはいない。
なぜならそんな距離感でいるのが楽だから。
だからみんなにいってる。
__僕に本気にならないでね…。
って…。
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