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桜井さんがヒビキの横で目配せをしてる。
「あ、はい…。分かりました。」
随分長くかかったような気がした。時間にしたらほんの数秒のはずなのに。
ヒビキがしばらくしてそう返事をしたのが、どっちの意味なのかが気になる。
行くのかよ、行かないのかよ…。
なんで食事くらいしてこいなんて、あんなこと言ってしまったんだろうって、帰ってからもずっと気になった…。あんなに後悔することになるなんてあの時は少しも思わなかった。
その日、彌生と食事をしたあとそのままいつも通り僕の家に二人で帰ってからもずっと、今頃あいつはなにしてるんだろうなんて、そのことばかり気になって仕方なかった。
彌生といつものように僕たちの甘いはずの時間を過ごしたあと、ベットで寝静まった彌生の隣で、なんだか悶々とした夜を過ごした。
翌日。
お陰で寝不足だ。そのせいか仕事がなかなか手につかない。集中力がなくなるほどさっきからチラチラとヒビキの顔ばかり盗み見ていた。
「なんですか?さっきから…」
「え?」
「なんか俺に話でもあります?」
朝からヒビキの顔を僕が何度も見るもんだから気づいたヒビキが僕にそんな風に言ってきた。
「いや?別に…」
「そうですか…」
ヒビキは平然とパソコンの前に座り、仕事を片付けていく。
いつの間にか気がつけばまた目で追ってる。ヒビキが忙しそうに部屋をせわしなく動き回ってるのを…。そんなヒビキが視界から消えると、その向こうにいる桜井さんと視線がぶつかった。なぜならそんな桜井さんもヒビキを見ていたから。
だからやっぱりそっちもなんとなく気になってついつい見てしまう。
僕の視線に気づいた桜井さんが向こうで静かに会釈してきた。
なんだよ、会釈なんかしてきて。
スッキリしない頭が重くてボーッとしながらこめかみをおさえた。
そのうちヒビキが無言でふらっと立ち上がり席を離れたかと思うと戻ってきて、僕のデスクの上にコトリと置いた。
気を利かせて自販でエナジードリンクを買ってきてくれたようだ。
「ん?」
「パワーチャージですよ。なんか、眠そうだし、疲れてそうだから…」
「あぁ…、ありがと♪」
ヒビキはつっけんどんな言い方だけど、こういう優しいとこあんだよな…。
思いも寄らない心遣いに嬉しくなり満面の笑みを向けるとヒビキが恥ずかしそうに目をそらした。
「そんなに喜びます?ほら、この前のコーヒのお返しです。」
そんなヒビキのさりげない優しさと心遣いに、エナジードリンクを飲む前から少しだけ元気が出た気がした。
もらったそれを早速飲んで気合いを入れ直した。
「疲れ溜まってそうですもんね。それになんかすごくさっきから眠そう。」
ヒビキのそんな声が少しため息混じりに聞こえてくるのは思い違いだろうか。
「まあね…。ただの寝不足だよ。昨日はあまり寝れてないから…。」
目頭を抑えて天井を仰ぐ。
なんで寝不足なのかなんて、その理由はお前には教えてやらない。お前のことをずっと考えていたせいだなんて口が裂けても言いたくない。
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