思わせぶり

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 その日の夜。いつものようにヒビキを夕飯に誘った。  あのあとの二人の事がやっぱりずっと気になってた。  桜井さんとあのあとどうだったのかゆっくり聞きたくて仕方ない。  話を聞かずに帰ったら、やっぱり今日も気になって寝不足になる気がした。  元橋みたいにパクッとあの女に食われてやしないか気になって気になってしかたがないのだ。  上司として部下の問題は把握しておかなければならない。これは部下の管理をする僕の務めだ。なんて。  自分にそう、言い聞かせた。  週末は僕に誘われるかもしれないなんてあいつ、言ってたもんな?だから、期待どおりに食事に誘ってやろうじゃないか。  理屈をつけて人のせいにして自分に言い訳してるけど、実は僕の方が気になって仕方ないのは認める。  二人で駅のそばの前からずっと気になっていたスペインBALに入った。  薄暗くて落ち着いてる。隣の席どうしも余裕あるし、静かで居心地がいい。微かに聞こえる洋楽のBGMがほどよく雑音に紛れて他人の会話が気にならない。  その入り口はかの有名な建築家のデザインを思わせる公園のような内装が独特の雰囲気だ。レジの手前の待合コーナーの、細かいブルー系のタイルを貼りり巡らせた曲線的な椅子のはじが、とかげの顔の形になっていてその顔がなんか言いたそうな顔してこっちを見ている。  店内の客席のテーブルは小さめだから顔を付き合わせて話すのにちょうどいい。お互いの距離が近いから小声で話せるのもいい。椅子はかなりゆったりしていてふかふかだから座り心地もよい。  壁には、今もまだ造り続けているあの有名な教会の写真が飾ってある。まだ出来上がっていないのに、昔作ったところはすでに老朽化していて補修しなければならないなんて。  完成するのをじっと待ちわびてるその姿は未完成なまま、なぜか人を惹き付ける。そんな壮大なスケールで時が流れるなか、夢を今も見続けているあの塔の先は空を見上げて今、何を思うんだろう。  その巨体が未だに未完成なまま百年以上もの間、そうして眼下に広がる街の移り行く景色を見守ってきた。次々と人の手を渡り引き継がれ、完成されるのを待ちわびながらその風景をこうしてる今も静かに見下ろしている。        
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