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初めてだ。
自分の事を人にこんなに話すの…。
今の自分がこうなってしまった根の深い話まで。僕が鳥かごのようなこの環境から抜け出せずに苦しんでいることまで話してしまった。
だから話してしまってからだいぶ後悔した。
なんて恥さらしな…。
僕としたことが…。
「あー」
気がつけば深い溜め息が漏れている。
やってしまった。
恥ずかしすぎだろ。酔った勢いでこんなの…。
うつむき、しまったと思いながら顔を手のひらで覆っていると、横で鼻水を啜る音がした。
__ん?
横で黙って相槌を打っていたヒビキの顔を見上げるとその目に涙を一杯溜めてこっちを見ていた。
鼻から垂れる鼻水を一生懸命啜りながら。
「おい、なんだよ、まさか泣いてるの?」
「だって…」
「なんだよ、鬼の目にも涙か?いつもの生意気な態度と屁理屈はどうした?」
「だって香田さん…」
「なんでお前が泣くんだよ…」
「だって…」
「関係のないお前が泣くところか?」
「俺がその鳥籠を開けてやりたい。
いつまでも閉じ込められてじゃダメだ」
「例え話だよ。別に閉じ込められてた訳じゃないって。監禁されてた訳じゃないよ?今は実家を出てあのマンションで自由気ままな生活をしてるしね」
酔ったせいだ。僕はどうかしていた。
そんな目でみられたら…。
なんだか…勘違いしそうだ…。
こんなこと人に話すなんて、らしくない。どうしたんだ。気持ちが弱ってる…。あんまりにも最近のヒビキが逞しくなったせいで少し頼ってみたくなったのかな。甘えたいようなおかしな衝動に駆られた。
「なんだよ、ヒビキ、泣くなよ。ほら、いい加減、泣き止めって。」
「じゃあ、ちょっとだけ抱き締めても、いいですか?」
「は?」
「だって…。そうでもしないと香田さんが壊れちゃいそうで」
しゃくりあげるように泣くヒビキが気の毒に思えた。
「あー、もう、好きにしなよ。ほら。」
そして黙ってじっとしたまま、椅子の上に腰かけた状態で直立不動で黙って抱き締められてやった。
抱き締めると言っても、腕を軽く回すだけの軽いハグだ。ダイニングバーは照明が控えめで薄暗く、奥の席にいた僕たちがそんなことをしたって誰も見てないし目立たない。でも、一応ひと前だから胸元を合わせる程度の軽いハグだ。こんなの、大したことじゃない。
それで泣いてるヒビキの気が済むなら。このおかしな雰囲気にしたのは自分だから。とにかくこの状況を何とかしないと。
だって、はたからみたらこれじゃ僕が若手の社員をいじめて泣かせてるみたいじゃないか。だからしょうがない。
抱き締められてあげるよ…。
これは僕の意思じゃない。
しかたなく、だ…。
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