彌生さんと椎名さんと(響side)

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 朝からオフィスのフロアを足早に歩き回って忙しそうにしてる香田さんを何となく目で追った。今日はまだ会話を一言も交わしてない。もちろん昨日の話しに触れることもない。  そんな香田さんがあの店で昨日、酔って俺に聞いてきたことをまたふと思い出す…。 *  俺のすぐ隣で座って酒を飲んでる香田さんはいつも気まぐれでよく解らない。時々寂しそうな目で俺を見てくる。だけどそうかと思うとからかって俺を遠ざける。そしていつも最後は子供扱いだ。  だけど昨日はちょっといつもと様子が違った。  俺も昨日は確かに酔ってた。  だから、隠していた筈の心の中を…  危うく…見せてしまうところだった…。 「なに?そんなに僕の事じっと見て。  僕がそんなに気になる?ていうかさ。   僕の魅力にやっと気づいちゃったか…?」  香田さんのその酔った気だるげな瞳が潤んで昨日はより一層美しかった。   普段からそんなちょっとした表情にいつも目を奪われる。目が合うたびにドキッとして心臓が跳ねるから、いつもそれを隠すようにしているとなぜか強がって生意気な態度になってしまう。  ふとした仕草や行動にいつもいつもいちいちドキッとする度に俺の中にしまっていたものがフタを開けて飛び出そうになる。  香田さんはじっと俺の目の奥を覗き込むように見てくるから、目の奥にある俺の心を見透かされてそうで、隠してるその心を読まれそうな気がしてドキドキする。 「はい?なんですかそれ。」  わざとあきれた顔でなげやりにそう答えた。 「いや、ただ言ってみただけ。なんてね。興味ないか、僕なんか…。  僕はさ。興味あるよ?ヒビキに。」 「やめてください、またそんな冗談。」  その言葉を真面目に受け取ってると思われるのがなんだか悔しかったし恥ずかしかった。  顔が熱いのを知られたくないからわざと嫌な顔をしてそっぽ向いてやった。  俺は本気になんかならない。だって、そう言われたし。この人はそんなこと望んでないから。 「ははは。バレたか。そうだよ。冗談。やっと少しは冗談が通じるようになってきたかなと思ったのに。」  ほらな。どうせまたそうやってからかってるんだから…。 「そんな冗談は要りませんから。」 「はー。つまんないな♪」  パエリアの烏貝のからを拾ってかさねながらもてあそび、つまんなそうな顔をしてる。 「なんで今日は俺にそんなこと言うんですか?」  ちょうどいいとばかりに俺はパエリアパンからライスを掬い、山盛り取り皿に取った。   魚介の味が染みててすごく美味しかったからひとりで全部いっちゃいそうな勢いだ。 「何て言うのかなあ。 例えるなら…。 風が吹いても靡かないようなビクともしない雑草は目につくし、そこから抜いてやりたくなるっていうのかな…。」  
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