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なんだよ。それ…。
口に運ぶスプーンが止まった…。
「俺が目障りで邪魔だって言いたいんですか?」
食べるのを止めてスプーンを皿に置いた。
黙って目と目を合わせるけれど二人とも無言のまま。
変な緊張が走る…。
すると香田さんは口元をゆるめ口角を片方だけ上げて見せたあと、スゥッと近づいてきて俺の顎を下から撫で上げてきた。
「そうじゃないよ?
踏ん張ってないで素直に風に吹かれて靡いてみれば?て言ってんの…。」
伏し目がちな目の奥の瞳がこっちをじっと見つめてきた。
あ、これ、いつもやるやつだ。
香田さんは気に入った子を見つけるとそうやって近づいていく。お子ちゃま扱いばかりする俺にはこんなことしないと思ってたのに。
急に俺の心臓が早くうち始めた。
今日は酔ってるからか?ドキドキが止まらない。変なムードになってきたぞ?
酔ってからかってんのか?
それとも俺にまで身体の相手をしろってことか?そんなの御免だ。
なんだかおかしな雰囲気になりそうになったからそれを誤魔化すかのように目の前のパエリアを再び口に運ぶ。口に入れすぎて咀嚼するのも飲み込むのも大変だった。
俺と香田さん…。
今の俺たちってどんな関係なんだろう。
ただの上司と部下にしてはこうして仕事の時間外にも最近はよく一緒に過ごすし、随分と心の距離が最近は近い気がする。
そんな俺たちには、他の人たちみたいな身体の関係はない。
心は寄り添うほど近い気がする…。
香田さんが自分のことを話してくるのは初めてのことだった。聞かされた俺はなんだかすごく心を揺さぶられ、気がついたら涙が溢れていた…。
あんな風に自由に生きてると思ってたこの人の心の中はかなり拗れてる…。あんなにかっこいいはずのこの人の奥底にある弱い部分を見てしまった気がした。俺に心を開いてくれたような気がして…。
だから多分…帰り際、無意識にあんなことを口にしていたのかな…。
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