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「やっぱり今日も椎名さんなんですか…」
「え?」
「俺じゃ…ないのか…」
今日も当たり前のように俺じゃなく椎名さんを慰める相手に選んだ…。
どうせ俺なんかいつも子供扱いだ。本気で相手になんかされない…。
店を出て家に向かって歩きながら、俺は後悔してる。
少し前に自分であんな風に言っておいて、今さら言わなきゃよかったなんて実は思ってる…
「それって、もしかしてあれですか?この俺にまでそんな関係を持ちたいって言ってるんですか?いつも他のやつにやるみたいに?
今、もしかして誘われてます?俺…。」
香田さんの昔話でなんだかしんみりして、俺が涙を流したりしておかしな雰囲気になったから、気分を変えようとふざけてわざとそう言ってやった。ギャグにして軽く笑い話にしようとした…。
こっちが逆にからかったつもりなのに。
「ん?あぁ……」
香田さんは明らかに動揺した顔をしてきた?
まさか…な…。
なんて思ったけど…。
やっぱ違ったか…。
「だからさ。そんな怖い顔すんなって。冗談だよ。なに本気にしてんの…」
すぐにそう切り返された。
なんだよ…。
ほらな。やっぱりだ…。
だからこっちもそうきっちり言い返してやった。
「やめてください。そういう冗談…。俺はそんなつもりは、全く無いです…。」
「わかってるよ、そんなこと。
ほんと、君は頭が固くて強情だなぁ…。冗談も通じないんだから。」
「なにがですか。マジで…。」
「ちょっと聞いてみたくなっただけだよ。だから気にしないで♪」
ふざけてそう言いながら、その目が寂しそうにしてうつむいた。
「なんか、ちょっと今日はいつもと違いますよね?香田さん。」
「どこが?」
「どこがって、よくわかりませんけど…
そんな見たこと無いような切ない顔しちゃって。らしくないです。あんな風に俺にべらべら話したり…」
「ちょっと今日は飲みすぎたかな…」
「俺が泣いたから?今日は俺、イケると思った?もしかして俺に身体の相手断れたの、そんなに悲しかったですか?」
そんな風に軽く笑い飛ばしてる俺の心のなかはなぜかモヤモヤで一杯だ。
「ば、ばかいばかいうなよ、だからさ、そっちこそなんの冗談?
僕はそんなに飢えてない。お前みたいなガキんちょに相手にされないからって悲しくなんかならない。
あっちの方は充分間に合ってる。」
「なんの冗談て…」
ビールをたくさん飲んだはずなのに俺の喉はからからに渇き切ってる。空いたジョッキみたいに俺の心も空っぽな気がした。
俺の中はいつも満たされることはない。いまその空っぽの俺のその心がモヤモヤで一杯だ。
「あー、あれか。僕らのそばにいたら僕たちに染まっちゃいそうだって、言ってただろ?それ、君が言った冗談だったよね、確か。」
「え?あぁ…」
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