彌生さんと椎名さんと(響side)

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「まあ、いいや。とりあえず君みたいなひよっこが僕に本気になられても困るから。今、言いたいのはそれだけ。」  本気になられても困るとかって言われてるこっちの身にもなれよ…。  なんかそれ、冗談でも傷つく。  どういうつもりでこんなこと言ってくるんだか…。  いつもはこんな青臭い奴なんか相手にならないなんて言うくせにさっきみせてきたあの顔は?    わかってる。そんなこと念を押されなくたって。俺はあんたに本気になんかならない。あんたが俺に本気にならない限り…。 「……」 「ふふふ。そんな顔して。ヒビキ、いまもしかしてなんかガッカリしてる?困るって言われたから?」 「違いますって…」 「だよね…。まあ、身体だけなら別にいつでもいいよ?相手してやっても」 「だからそれはないですって。」  また近づいてきて今度は俺の首を細い4本の指先で包み込むようにして撫で、残りの立てた親指がほほをさらりと撫でた。 「そんなに驚いた顔しちゃって…。そんなに見つめても僕の心までは奪えないよ?身体だけなら許してやる…」 「や…やめてください。」  撫でてくるその手を振り払った。 「無駄ですよ?そういうの。俺は他の人たちみたいに簡単にあなたの身体の相手だけする関係なんか嫌ですから。」 「ん?」 「だから。たとえ俺が他の人たちみたいにあなたの身体を手に入れたとしても、それが俺だけの物にならないんならそんなのいらないって言ってるんだ。だから俺はあんたとそんな関係になる気は全くない…。」  はっきりとそうこっちから断っておいた。  言われなくてもわかってる。  俺はあんたに本気になんかならないし、そんなあんたのセフレみたいな関係なんか俺は望んでない。  ピシャリと言ってやったからさすがに驚いたようで香田さんはしばらく俺を黙ってじっと見ていた…。  この人のことがよくわからない。  そしていつものように俺の前で椎名さんにここにくるように電話を始めた。  今日はもうさっさと帰ろう。椎名さんの顔を見る前に…。顔を見たらなんの罪もない椎名さんのことが嫌いになってしまいそうだから…。  呑んだ席でそんな会話をしてたのを帰り道に考えては重いため息をついた。そのため息の重さに耐えられず俺の気持ちまで引っ張られ、家に着く頃には気分が下がりまくった。  あんな風に俺と桜井さんのことを何度も執拗に聞いてきたりして、わざわざそんなことを聞くために夕飯に誘ったのかよ、なんて少しだけ嬉しく思ってたのがバカみたいだ。   もしかして俺のこと気になりはじめてるのかな、なんて勘違いしそうになったけど。  そんなんじゃなかった。  香田さんの昔話に涙なんか流したのもバカみたいだ。  そんな香田さんは単に飲みすぎて酔って俺に絡んできただけだった。そしていつも通り、最後には椎名さんを呼びつけて。  どうせあのあといつもみたいに二人で一晩中いちゃついたんだろ。  
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