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二人のうちのどちらかに告げ口する気もないし、敢えて社内で言いふらすつもりもない。
椎名さんと彌生さんはお互いにお互いのことをどう思っているんだろう…。
表面的には見えてこない三人の関係は俺が思うより複雑な気がした。三角関係ともおそらく違う。
だって、香田さんはその二人のどちらとも本気で愛し合ってはいないし、二人はお互いにそれを了承した上の付き合いのようだったから…。
だから俺にはやっぱりそんな香田さんが理解出来ない。
何でこんな理解できない人のことを…
俺はなんで…こんなにも…。
*
今朝は香田さんが出勤してきて早々に荷物をまとめ、外回りの支度を始めた。
昨日はあのあと椎名さんとどんな夜を過ごしたんだろうなんて色々ひとりで想像していた俺のところに、歩きながらジャケットの袖に片腕を通して羽織りながら香田さんが寄ってきたから思わずドキッとした。
シャツの上からでもよくわかる鍛えた胸板の辺りがピンと張っている。片手でジャケットのボタンをしめる仕草がなんだか妙に色っぽく見えた。ああやって昨日も椎名さんの前で服を着たり脱いだりしているのを勝手に想像してしまう。
「ヒビキ、出掛けてくるよ。今日はもうこっちに戻らない。さっき僕に来てた電話の件の処理、代わりに君がしといてね。」
「はい…。」
香田さんがコツコツと足音を鳴らして部屋を出ていった。シンと静まり帰る部屋に足音が響き渡る気がした。
そんな俺のことを香田さんは昨日も子供扱いしたくせに。
そしてまたからかって反応を見て楽しんでたくせに。
昨日はあんな風に寂しい顔を俺にみせてきたくせに。
昨日のあんな酔っ払った姿がなんか嘘みたいに、今日も何でもないような涼しい顔をしてる。嫌なくらいに、仕事をしてる時の香田さんはマジでかっこいい。
くそ…。
香田さんの思い出話に涙した自分がバカみたいだ。あの涙を返して欲しい。
椎名さんと香田さんの関係も彌生さんと香田さんの関係も相変わらずなくせに昨日は俺にまで酔ってあんな風に言ってきた。
気に入った男は手当たり次第見境がない。
俺のことをいつも青臭いひよっことか言ってガキ扱いしてくるくせに昨日はあんなに簡単にああやって俺を身体の相手に誘ってきた。
だから真面目に断ったら、冗談だって笑い飛ばされた。
昨日はなんで急にあんなことを聞いてきた…?
香田さんがいなくなったあとも、そのジャケットを羽織る仕草と共にその事がずっと頭から離れなかった。
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