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なんなんだよ。あの時、俺を心配して保護してくれたかっこよかったあの人はどこに行ったんだよ。
そういうのは大切な人とする時のために取っておくんじゃなかったのかよ…。
だから俺は決めたんだ。
いつかこの俺が振り向かせる。俺が何とかしてあんたと幸せになってやるよってさ。あんたが、大人になった俺にちゃんと向き合ってくれるまで俺はあんたのそばで…。あんたが俺に気づいてくれるまであの時の事は言わないでおこう。
大切な人とするためにとっておいた。それはあんたのためにとっておいたんだって言って驚かせてやる。
そう思ってたのに。
俺なんか相手にされることはやっぱりなかった。あの人のそばにはいつも彌生さんと椎名さんがいた。
俺なんかが必要とされる事は一度もない。
なんだ…。やっぱりガキんちょの俺じゃダメなのか。
本当のことなんか言わなくて正解だった。
俺があの時の子だって。
だからなんだって言われるのが怖い。ガキんちょのお前なんか相手にするかよって言われそうで怖い。
あの時、あんたに一目惚れしてキスしたなんてことなんか絶対に知られたくない。
あの時のことは恥ずかしいから今さらもう、思い出して欲しくない。
そう思っていたのに。
それなのになんだ?
俺の方がぐらついてた。危うく心の中をみせてしまいそうになった。
いつもみたいにからかいながら子供扱いしてきたくせに。あんなに寂しそうな目をして俺を見てきたから。だけどそれも気のせいか?
単に酔ってまたいつもみたいにからかわれたんだよな。あんなこと言って…。
だから絶対俺はこの身体を許さない。
他の奴らみたいな身体だけの関係とかそんな存在にはなりたくない。
俺は決めたから。
俺は俺を愛してくれるやつとだけ…。俺だけをちゃんと見てくれて、俺だけをちゃんと愛してくれるやつにしか、もうこの身体を許さないって、あの時そう決めたんだ。
そう言ったのはあんただったよな?
あの時…。
『そう言うことは大切な人とするためにとっておくものだよ』ってさ。
だからあの時以来、俺はあんたの言ったことをちゃんと守ってきたんだよずっと。
あんたとその続きをするために。
俺だけを見てくれる日を夢見て…。
あの時、今にも果てそうだった俺の命にあんたは灯火をくれたから。それが俺の生きる目的になったから。
そんなことを考えていたら、ふと、あの時のあの場所にもう一度行ってみたくなった。
あの、自分を投げ出したあの日、全てを放り投げたくなってあんなことをしたあの日、僕を拾ってくれたあの人に会ったあの場所に…
『ラビリンス』
確かそんな名前の店の前だった…
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