あの場所で(響side)

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あの場所で(響side)

 空が深い藍色に染まり、街にネオンが瞬きだす頃。俺はあの時の、あの場所にやって来た…。  今でも変わらない景色。店の横の路地裏を通りかかるとあの時のことが思い出される。  あの時の店はあの時のまま。あのマスターも変わらずそこにいた。     ラビリンスに来たのはどのくらいぶりだろう。  店に入るとボーイさんがカウンター席に僕を案内してくれた。  そのカウンター席の少し離れた席に座っていたガタイのいい男が、俺が入ってくるなりジロジロ見てきた。物欲しそうな顔でこっちをしばらく見てた。  俺はそんなつもりで来たわけじゃない。マスターと話がしたかっただけ。  それだけだ。だけど。  そいつは空いていた席をつめて隣にやってきた。 「一人?」 「あ…。」 「待ち合わせかなんか?」 「いえ。あの…、マスターと話がしたかったから。ちょっと聞きたいことがあって。」  うっとりした悩ましげな目がこっちを見てくる。まるでその瞳で誘ってくるみたいな、色めいた眼差しだ。その顎髭が妙にいやらしい。 「ふーん。なにを聞きたいの?」  薄暗い店内で一際存在感のある照明器具がうっすらとオレンジの光を放っている。  その弱い光がそいつの横顔を照らし影がさしている。憂いのあるその表情が妖しげに微笑んで見えた。いやらしいその目が眩しそうにこっちを見てくる。 「んー、マスターの昔の事…とか?」 「へぇ。俺が教えてやろうか。」 「え?」 「俺が知ってることなら。」  その男が顔を寄せてきた。  こんな男になんか興味がない。  改めてそう思う。  男なら誰でもいいなんてちっとも思えない。  きっと、こういう奴らの間ではこの人もモテるんだろうけど。  自信に満ちたそんな顔で誘うようにこっちを見てくる。 「で?マスターのなにを聞きたいんだ?」  さっきより顔が近い。たばこの匂いにまじって野性的な男の匂いがした。 「昔、マスターが付き合ってた人?のこととか…。ここに来る人のこと?とか…」 「そりゃ数えきれないくらいいるぜ?  マスターはあの通りダンディーでモテ男だしな。  特定の相手とかはいなかったんじゃねぇかな。」 「そうですか…」 「でも、大事にしてたやつはいるよ。何人か。」 「え?」 「一番大事にしてたのはやっぱり香田さん、かなぁ…。」  
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