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マスターがそう言って助けてくれた。
「わるいな…」
「なんだよ。つまんネェな」
マスターがかためを閉じて優しく俺に微笑んだ。
「もう、そんなつもりがないならここに来ない方がいい。あんたみたいな可愛い子を狙ってるやからが一杯いる。」
「はい。でも、こうしてマスターと話がしたかったから…。」
「俺の目が届く範囲ではこうして助けてやれるけどな?ここから一歩外出たら、あとは知らねぇぞ?店からそのままつけ回される事だって…。」
「はい。ご心配無く。自分でそこは何とかします。マスターに迷惑はかけません。」
「ははは。そうだな。大人か。
お前もあの時はまだガキだったもんな。こんなところに間違って迷い込んできた子羊ちゃんが。今じゃ随分立派な大人になった。」
「間違ったんじゃありません。自分で来たくて来たんです。あの頃はどうでもよかった。俺の人生なんか。」
「随分荒れてたもんな。あの時のお前。未成年の癖に、人の酒を横取りしたりして。」
「マスターがくれなかったからね。」
「当たり前だ。未成年の小僧に出す酒はない。
そんなお前に面白がって騙して飲ませたあいつらもあいつだ。あいつらはあの日以来、出入り禁止だからな。俺はそういうのは絶対に許さねぇ。」
マスターの誠実なその人柄が人を引き寄せる。この人なら信頼出来るって思えるから。
また来よう。マスターと話がしたくなったら。
香田さんはもっと自分をもっと大切にしなくちゃいけないんだ。
だれかとちゃんと幸せにならなくちゃいけない。それが俺だったらいいのに。
入り口の近くのボックスシートに腰かけた彌生さんは俺に背中を向けてるから俺には気づいてない。
ガクさんと呼ばれた男がカウンター席の少し離れたところでまだ俺の事をじっとみている。
マスターは俺にカクテルを作ってくれた。甘くてのみやすかったけれど結構アルコールが強くて喉から胃に行くまでにヒリヒリとする感じがした。
急に酔いが回る気がした。だからその後のことも、自分の言動なんかも、正直ちゃんと覚えてない…。
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