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「俺は愛してるよ?香田さんのこと…」
「他にもああやってパートナーがいるくせに?」
「だからそれはお互い様だろ?香田さんだって…。」
「ほらね…。
本当に香田さんだけを愛してるなら、やめたらどうですか?あんな人との関係も。」
向こうの入り口のそばでたばこを吸いながらチラチラこっちを見ている男の方に視線を向けた。
「言っておくけどお前なんかに香田さんを譲る気はねぇよ?お前なんかが俺から香田さんを奪えない」
「別に俺、彌生さんに譲ってもらう気なんかありませんけど?だけどそれは香田さんが決めることだ。」
「へぇ。言うことだけはご立派だな。」
「香田さんは、自分が本気になれる人とちゃんと向き合って、ちゃんと幸せになるべきだ。」
「なんだそれ。」
「椎名さんや彌生さんじゃきっとダメだから。」
「分かったようなことほざいて生意気なこと言うなよ。」
「少なくとも彌生さんや椎名さんじゃない。」
「ふん。どっちにしたってお前なんか相手にされねぇよ?青臭いガキだっていつも言われてんだろ。男に抱かれたこともないくせに」
「どうですかね。」
「笑わせんな。ガキんちょのなんの色気もないおまえなんかのこと、香田さんは抱かねぇよ」
「でも、あの人に言われたから。」
「なにを。」
「そう言うことは大事な人とする時のためにとっておけって。」
「はー。なんだそれ。」
「あなたには必要のない言葉です。俺はそれを大事にしてる。大事な人とその続きをするために」
「へぇ。」
「俺はいつか俺だけを見てくれる人とのためにとっておく。」
「香田さんがお前だけを見る日なんか多分来ねぇけどな。」
「あなたも香田さんに本気で愛される日なんかこない…」
耳鳴りみたいな音がした。目の前の景色も歪んで見えた。
目の前の彌生さんが苦しそうな顔でこっちを見ている。いま吐き出した言葉は無意識だ。自分でもなにを言ってるのかわからないくらい…。自然に出た言葉だ。
感情的な自分をもう抑えられない。
「おい、彌生?大丈夫か?」
向こうにいたサラリーマン風のその人がこっちに近づいてきた。
「お前、見ない顔だよね、随分元気がいいじゃん」
その男がほほに手を触れてきた。
「迅くん、こいつと関わるのやめておきなよ。頭固いしめんどくさいやつだから。厄介だし」
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