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「ちゃんと素直にイイコで着いてきたじゃん」
「なんですか、そのイイコって。
子供扱いしないでください。
香田さんがお互いの理解を深めるためだって言うから…仕方なく…。」
憎まれ口を叩き、まだ照れた顔してこっちを睨みながらそんなことを言ってる。ちゃんと一緒に着いてきてカウンター席の隣にちょこんと座ってる癖に。
「まあいい、食べよ♪」
寒くなってきたからもつ鍋を注文した。刺身の盛り合わせと手羽カラも頼んだ。シーザーサラダと。
ビールで乾杯して。
取り皿に取り分けてやろうとしたら菜箸と皿を奪われた。小さくて可愛い手が長い菜箸を使って器用に掴むのを思わずじっくりと見た。僕は人の手を見るのが堪らなく好きだ。手を見ただけで欲情してしまうくらい。指先フェチだから。
無言で取り分け僕に渡してきた。
一応、一丁前にこの僕に気を遣ってお世話をしようとしてくれてるみたいだ。
「ありがと。気が利くな」
そう言ってヒビキを見ると、目が合うなりなんだか驚いたような反応をしてきた。
なんだよ、そんなに驚くことか?
何度もまばたきをして慌てたように急に目をそらしアクが上がってきた鍋を覗くような仕草をしながら、その大きな目だけをそっとまたこっちに向けてきた。カウンター席の隣同士だから、いつもよりかなりお互いが近い。だから至近距離で見つめあった。上目遣いで見てくるその目は睫が長くて普段の表情よりかなり幼く見えた。
ニコッと僕が笑いかけてやったら、目があったヒビキはまた照れた顔をしてあわてて目を反らした。
なんだよ。そんな風にされたらこっちまで照れるだろ…。
「肉ばかりじゃダメですよ!ほら、お野菜もとらないと。」
また口を開けばそうやって小言を言ってくる。本当に生意気な奴だ。ちょっと気を許すとすぐにこれだ。照れてる場合じゃなかった。本当に憎たらしい。
モツばかり拾ってたからそんなことを僕に言ってきて僕の手から皿を奪い、僕の小どんぶりに野菜を山のように盛っていく。盛られたから仕方なく野菜の山をやっつけていく。
ビールをぐいっと煽り空いたジョッキをテーブルに置くと同時にヒビキは店員さんに声をかけた。
「あ、すいません!」
「はい、なんでしょう。」
まだ食うのか。若いな。
「あ、注文お願いします。香田さん、飲み物は?」
あれ?違う…。
「じゃあ同じので。」
「じゃあ、ビールを一つ下さい。」
「まいど。」
なんだ。僕の飲み物のために呼んだのか。
なんか自分が食べたいもの注文すりゃいいのに。一丁前に気を遣ってるつもりか。
サラダのトングを取ろうとしたらタイミングが合って、手と手がぶつかった。
「あっっ、すいません…」
謝ってきたヒビキはまたすごく驚いた顔をして照れながらそのあたった手を反対の手でこすっている。
だから、さっきからさ。
そんなに驚かなくたっていいだろうに…。
今さら僕に緊張するような事でもないだろうに…。
さっきとは別の店員さんが威勢よくビールジョッキを持ってきた。
若くて元気なイケメン君だ。少しやんちゃで暴れん坊なたいぷだ。キライじゃないよ。やんちゃなのも。きっとあっちも元気でやんちゃで暴れん坊なオラオラタイプだ。
イイネ、彼。相手にするにはまだ少し若いな。もう少し熟したらいい男になる。
僕のこの目が自然といつものように品定めを始める。そんな僕の顔を、汚いものでもみるような顔で嫌そうにヒビキが見つめている…。
そうだよ…。
僕はそう言うやつだから。お前には僕が野蛮で破廉恥で、節操の無い尻軽なやつに映ってるだろうね。
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