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「こちらの羊羹も合わせてお召し上がりください。
慣れ親しんだ味は、体の緊張もほぐしてくれますよ」
私はたしかに羊羹があるコンバラリヤの生まれ。
見た目もそのままだけれど、私のような見た目の国は他にもあるし、言葉も共通言語を話している。
「なぜ、わかったのか、という顔ですね」
じいやは手で2つある羊羹のうち1つパクリと口に運んだ。
「うーん、やっぱり羊羹は美味しいですね。
祖母の味を思い出します。
私が食べたことはナイショですよ」
「お祖母様が?」
「そうです。
祖母はヘリアンサス出身の祖父と出会い結婚してこの地に移りました。
時々孫に作ってくれてたんですよ、故郷のお菓子を。
だから、ヒビス様にお会いしたとき、警戒しましたが、同時に懐かしい気持ちも出てきて。
御縁ってあるんですね」
「そうだったんですね。
クオーターということは全然わからなかったです」
「そういうあなた様もヘリアンサスの血が混じっているのではないですか?」
「なんでわかったんですか!」
たしかに私はヘリアンサスとのハーフ。
でも母の血を多く受け継いでいるのか、何もかも母にそっくりで、ヘリアンサス人の要素は一切なかった。
「話し方、ですよ。
祖母は生粋のコンバラリヤ人で苦手な音がありました。
でもヒビス様は問題なく発音されています。
ヘリアンスの血かは五分五分でしたが、当たりましたか」
「お見事です」
思わず拍手してしまった。
さすが博識。
「王子の側近ですから。
このくらいは考えられなければ」
「ふふっ。でも本当にすごいです」
「ありがとうございます。
では、美味しい羊羹をお召し上がりください」
「いただきます」
フォークで刺して口に運ぶと、砂糖の甘みと小豆の香りが口の中に広がった。
羊羹を食べたのなんていつぶりだろう。
気がつくと涙が流れていた。
「どうされたんですか?」
じいやが慌てたように言った。
「…懐かしくて。
故郷を思い出して、帰りたくなりました」
「そうですか…。
なにか、帰れない事情がおありなのですね。
なにか私共にお手伝いできることはありますか?」
「王子が、メロスリア王子が元気に育ってくれること。
それがなによりの私の願いです。
よろしくお願いします」
私は立ち上がり頭を下げた。
じいやも戸惑っている様子が伝わってきたが、「かしこまりました」とだけ言った。
最初に着てきた服はボロボロでとても着れなかったので、新しいものを準備してもらった。
黄色のワンピースは端には丁寧にレースがあしらわれており、私なんかが着るのが勿体なかったが、王子が選んだと言われると着るしかなかった。
こんな素敵なワンピースは初めてで、自分の使命を忘れて踊りだしてしまいそうだった。
「王子には会っていかれないのですか?」
「はい、別れが辛いので。
王子の泣き顔を見たくはありません」
「わかりました。
では、お気をつけて」
「ありがとうございます」
丁寧に頭をさげるじいやがみえなくなるまで手を振った。
もう一度会えるかはわからない。
しばらく歩き、木々が生い茂る林のようなところに出た。
中央に切り株があり、そこに手を触れ、反対の手でイヤリングを触った。
私の体から光が放たれた。
次第に光は弱まり、消えた頃には人の姿は見当たらなかった。
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